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シリーズ『種』10~DNA信仰が、植物本来の力を失わせた元凶~

本シリーズでは、農作物の源である『種』について追求し、外圧適応の仕組み・交配の仕組み・遺伝の仕組みについて、原理を掘り下げてきました。今回は、シリーズまとめとして、追求してきた内容を振り返ってみたいと思います。

これを通じて、持続可能な農業はどう実現していけばよいか?の展望を考える一助になればと思います。

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画像は、こちらからお借り [2]しました。

■日常的に進化を繰り返し、子孫へと遺伝する『獲得形質』

植物、あるいは動物も同様ですが、外圧の変化に対して柔軟に適応する仕組みを持っていること、さらには、適応過程で獲得能力を遺伝する力を持っていること。当たり前とも思える、この2つの認識がとても重要です。

外圧の変化に適応するための『進化』は、凄く大変なことのようにも思えますが、実は、適応するための小進化は常に行われています。雨が降らない、暑い・寒い、害虫が襲ってくる・・・。そういった日々の外圧をキャッチし、それに適応するために、細胞内のたんぱく質が指令を出し、自在な組み換え作業が行われています。

これにより、細胞壁を強くする、水が少なくても生存できる、害虫から耐えるなどの耐性を高めているのです。植物は、動くことができないだけに、組み換えのしやすさが重要な適応戦略となっています。

さらに、この獲得した能力は、後世にまで引き継いでいくために、生殖細胞のDNAにも刻印されます。

こうした日々の組み換えと、後世への遺伝を繰り返しながら、植物は多様な外圧にも適応しうることができるのです。これが、『獲得形質』という生命原理の一つです。

 

■性質の異なる植物の交配により、進化を促進する『雑種強勢』

もう一つ、外圧適応するための能力を高める方法として、「雑種強勢」という適応戦略があります。これは、Aという植物と、Bという植物が交配した場合に、互いの高い能力を、子孫にて引き出されるという適応戦略です。

例えば、寒さに強い植物と、害虫に強い植物が、互いに交配すると、その両方の能力が優位に引き出されるという仕組みです。これも、植物が進化を促進させる自然の摂理の一つであり、重要な外圧適応戦略です。

 

このように、

2つの遺伝の流れが複雑に組み合わさり、何世代・何十世代にもわたって塗り重ねていくことによって、多様な外圧に適応する力を獲得してきています。

 

■DNA信仰が、遺伝の塗り重ね構造を破壊≒自然の摂理を逸脱した元凶

その一方で、これまでの近代科学では、上記のような適応戦略は着目されていませんでした。現在も、「DNAが組み替わることはない」ということが定説となっています。

その結果、「DNAがすべての能力を規定する」⇒「人為的にでも、DNAを組み替えすれば、強い植物を作り出せるという技術開発へと収束してきたのが、近代農業の軌跡です。

そして、

など、DNAを操作することで、あたかも植物の能力が向上したかのように見せかけているのです。

しかし実態は、人間にとって生産性を高めるためだけに、見た目が良いだけに、味の濃い作物をつくるためだけに、整形手術をするかのごとくにDNAを操作し続けてきたのが、この100年の近代農業の歴史です。

そして、現在の農作物の大半が、化学肥料や農薬が無ければ、まともに成長することすらできないほどに、外圧適応する力を失ってしまったのです。決められた外圧の中でしか、生き残ることができない。だから、台風や疫病が広がると、たちまち大規模な作物被害に陥ってしまう。極論すれば、外圧適応する力を失った作物たちは、植物と言えるのでしょうか。

 

■有機農業が、これからの可能性になっていくか?

そのような不整合感は、社会的にも高まっているように思います。昨今では、化学肥料・農薬を使わない「有機農業」が注目され、国策としても取り入れられています。また、海外においても、有機農業比率を3割近く(日本は数%)にまで高め、自然の摂理に根ざし農業へと転換させていこうとしている国家も現れ始めているという潮流があります。

植物本来の力を活かした本来の農業、つまり、新しい農業のかたちはどのような方向へと向かっていくのか?

引き続き、『有機農業』シリーズにて、追求していきたいと思います。

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