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『農業と政治』シリーズ12:柳田國男の志をこれからの農政に活かす

『農業と政治』シリーズ8:柳田國男が見た日本の農業 [1]
『農業と政治』シリーズ10:柳田國男が指摘する農業の問題構造 [2]

 

明治時代、彼が志した農政改革の中心にあり続けた思考は、「真に支援すべき対象は誰か」ということ。

それは、現在深刻な後継者不足に陥っている日本農業の再生を考える上で大変示唆に富んだものです。

彼の志を汲み取った、これから求められる農政とは。

今回のブログは、次代の農業政策にも踏み込んだ内容でお届けしたいと思います。

●真に支援すべき対象は誰か
土地の生産性を重視する地主階級からすれば、小作人は多ければ多いほど土地の収量が上がるので良いことになる。また、関税による米価の引き上げは、地主階級の利益になる。高率小作料に高米価が加わると金銭に換算した小作料額も高額となるので、収益(小作料)還元で決まる地価も上昇する。
地主は利益を得るが、小作人が農地を購入して自作農になることはますます難しくなる。米価の上昇は、貧しい消費者の家計も圧迫する。

これに対し、柳田國男は、「何故に農民は貧なりや」という問題意識を持ち、小作人や自作農ら耕作者の観点から、農業や農政にアプローチしようとした。

 

●柳田農政学の基本
農家や農村の貧困問題を解決するため、柳田はさまざまな提案をしているが、その中心にある考えは、実に簡単なものである。それは一言でいうならば、農業の規模拡大や技術革新を通じて生産性の向上を図り、コストを削減して所得を上げようとするものである。

彼は生産量や生産額を重視する当時の農業界の主流派の人たちに対して、生産費(コスト)の重要性を強調し、大農でも小農でもない中農養成策を論じた。当時の学界や官界で有力であった寄生地主制を前提とした小農論に異を唱えたのである。

農業界が要求した農業保護関税の導入に関し、柳田は、消費者家計のことを考えると、関税による米価の引き上げではなく、構造改革による生産性向上、コストダウンによって農家所得を向上すべきだと主張した。
彼は、零細農業構造により世界の農業から立ち遅れてしまうことを懸念し、農村から都市への労働力流出を規制すべきではなく、むしろ農家戸数の減少により農業の規模拡大を図るべきであると論じた。「微細農」ではなく、海外の農業と競争ができ、企業として経営しうる2ヘクタール以上の農業者、すなわち「中農」を養成すべきであると主張したのである。

 

平等意識の強い農家保護政策、江戸期から続く零細農家構造、進まない優良農地の集約。
100年前に柳田國男が指摘した問題構造の本質は、今も何ら変わることなく、深刻な後継者不足という社会問題の根幹に存在し続けている。

 

●次代の農家を育てるための政策とは
次代の農業を担おうと意欲溢れる農家を育てていくために、今後は例えば以下のような政策の是非を問うことになるだろう。

1.価格・関税政策は廃止する。減反を廃止して、米価を下げれば、兼業農家は農地を貸し出す。主業農家に限定して直接支払いを行えば、地代負担能力が上がって、農地は主業農家に集積する。農業の規模は拡大し、零細分散錯圃は解消し、単収も向上して、コストは下がり、米は一大輸出産業に変貌を遂げる。輸出によって、コストのかからない備蓄と農業資源の確保が可能となる。

2.今のJA農協から、農業部門を切り離し、地域協同組合とする。必要があれば、自主的に主業農家が農協を作ればよい。米専門農協、輸出農協、IT農協等の専門農協を作ってはどうか。新農協は主業農家など耕作者本位のもので、一人一票制ではなく、利用量に応じて発言権があるようにする。

3.フランスやドイツ並みのゾーニング制度を確立し、農地法は廃止する。ゾーニングの中では、農業以外の土地利用は禁止される。誰でも(通常の農家でも株式会社でも)農地を取得できるようにする。また、交換分合、農地保有の細分化規制、先買権を持った農地の公的管理という考え方による担い手農家への農地集積などを推進する。所有者不明の農地及び不在地主の農地は買収するか、その上に主業農家の耕作権を設定する。

 

引用元:「いま蘇る柳田國男の農政改革」(著:山下一仁)

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