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『稼ぐ農』シリーズ6~自分たちでつくって、運んで、売る。が創りだす価値

自分たちでつくったものを、自分たちで運び、自分たちで売る。

書いてしまえば当たり前のようにも思えますが、
こと農業において、生産・物流・販売、これら三つの領域を全て自社で賄っている会社は、ほぼ存在しません。それだけ難しいということでしょう。

今回ご紹介する(有)類農園 [1]は、上記三領域全てを自社で展開する、業界でも稀有な存在。生産・流通・販売、これらを一体のものとして展開してこそ、農業経営の可能性は大きく拓かれる。それを類農園は現実の経営活動をもって実証しようとしています。

稼ぐ農シリーズ第6弾となる今回は、彼らの事業展開を(ほんのさわりですが)ご紹介しながら、農業経営の可能性を深掘りしていきたいと思います。

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●自分たちでつくっているからこそお客様に伝えられる言葉がある
例えば「有機(オーガニック)JAS認定」。
類農園も取得しているこの認定。農林水産省が管轄するこの認定の取得には、以下のように厳しい基準が設けられています。
・種まき又は植え付けする2年以上前から、田畑の土に禁止された農薬や化学肥料を使用していない。
・栽培中も禁止された農薬や化学肥料を使用していない。
・有機質の肥料についても、その原料まで遡って安全性がチェックされる。
・遺伝子組み換え由来の種を使用しない。
など。

だから、類農園の売り場(直売所)に並んだ野菜を紹介するPOPに書かれた言葉は「新鮮!」や「甘い!」だけではありません。
「土づくりへのこだわり」「どんな堆肥を使っているか」「だからこんな食べ方をお勧めしたい」など、自らが生産者だからこそ伝えられる生々しい追求の軌跡をそのままに、大切な商品をお客様にアピールできる。
「有機JAS」シールが貼ってあるから売れる、というわけではありません。それなら有機JASシールが貼られた農産物を仕入れて売れば良いだけのこと。
生産者として誰よりも追求している、その熱量を直接お客様に伝えられることが、一番のアピールなのです。

 

●農家さんたちとの信頼関係が魅力的な売り場をつくる
類農園が経営する直売所では、自社でつくったものだけでなく、他の農家の方々がつくった農作物もたくさん売られています。
売場の魅力は鮮度と品揃え。新鮮でおいしそうな野菜が毎日たくさん並ぶこと。しかし自社生産だけでこうした魅力ある売り場をつくるには限界があります。良い品物を出荷してくれる他の農家さんたちの協力あってこそ、お客様が毎日ワクワクしながら訪れたくなる売り場が出来上がる。だから、

【大切に育てた野菜を、真っ先に類農園の直売所に出荷してもらえる】
農家さんたちとのこうした信頼関係づくりが、魅力ある売り場づくりのためには不可欠。そしてここでも「自分たちでつくっていること」が大きな強みになります。

まず大切な視点。誤解を恐れず言うと、「自社の経営」のことばかり考えていては経営はうまくいきません。
例えば畑へ向かう農道や水路、溜め池など、農作物を育てるために必要なインフラの多くは地域の共有資産。「草刈り出合い」などの地域活動に参加しながら農家さんたちと地域の農業を守っていくことも大切な仕事。「農業の担い手不足」叫ばれる昨今は特に、地域が抱える課題もそこから生まれる期待も、当事者として受けとめ経営の志としていく。

そのうえで、自分たちも生産者であるからこそ、農業の難しさ、苦しさ、そして面白さが分かるということ。だから農家さんたちが手塩にかけた野菜たちの価値は誰よりもよく分かるし、どうすればこの価値をお客様に伝えられるか、適正価格で買ってもらえるか(ブランディング)、農家さんたちといっしょに追求できる。こうした試行錯誤の過程は、売場に書かれたPOPや店員さんとのコミュニケーションを通じて、鮮度や品揃え+αの価値としてお客様に伝えられていきます。

さらに。
農家さんたちにとって直売所は、手塩にかけて育てた作物たちをお客様にお披露目する場所。良い評価をもらうこともあれば、そうでないこともある。商売の現場は常にシビアですが、なんであれお客様からの生の声は、生産者にとって大きな活力源になります。「次はもっと良いものを」という生産者の意欲の高まりは、店頭に並ぶ商品の質をさらに高め、売場はより魅力的なものになっていきます。

類農園は自ら生産と販売の両方を担うことで、日頃から生産者と消費者双方に正面から向き合い続けている。
だからこそ、類農園の売り場は魅力に溢れているのです。

◆◆◆

…そんな類農園が次に目論むのは、自社物流網の強化。
先に書いた通り、魅力的な売り場には、新鮮でおいしそうな色とりどりの野菜たちが毎日並びます。
とはいえ、国内いたるところから集荷していては輸送コストもかかるし鮮度も落ちる。かといって集荷エリアを狭めすぎると、鮮度は良くても品揃えに欠ける。

そこで、大阪府下で4ヶ所の直売所を経営し、奈良と三重に自社農場を持つ類農園が進めているのは「近畿圏における緻密な物流網の構築」。近すぎず遠すぎない、絶妙な地域戦略の下で物流コストを抑えながら、更なる事業展開を図ろうとしています。

この発想も、自分たちと、信頼関係で結ばれた農家さんたちが手塩にかけて育てた野菜を、できるだけ新鮮でおいしいうちに適正価格でお客様の元にお届けしたい、という想いから生まれています。
つまり生産と販売を自ら担っているからこそ生まれた物流戦略(と私は思います)。

生産・物流・販売、これらを一体のものとして経営できるからこそ生まれる売り場のワクワク感を、ぜひ一度お店を訪れて感じていただければと思います。

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