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『稼ぐ農』シリーズ4~北海道の農業事情(稼ぐ力の背景)

農家の平均年収(H26農業経営統計調査)
1位:北海道:787万円
2位:東北:448万円
3位:北陸:477万円

収入面で他の地域を大きく引き離す北海道の農家。
北海道の農業といえば広々とした土地で大規模経営というイメージが強いですが、今回は様々なデータから、その内実を明らかにしていきたいと思います。

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調べていくと、北海道の農業には以下のような特徴が見えてきます。

●土地資源を活かした専業的な大規模経営
北海道では、先に示した通り、恵まれた土地資源を活かし、専業的で大規模な経営体を主体とする農業が展開されている。
令和2年(2020年)の北海道の1経営体当たりの経営耕地面積は30.2haと都府県平均2.2haの13.7倍。
乳用牛飼養頭数は146.3頭と都府県平均61.9頭の2.4倍、肉用牛飼養頭数は167.9頭と都府県平均47.1頭の3.6倍。

●高い専業農家比率
個人経営体では、令和2年(2020年)の主業経営体の割合が71.7%と都府県平均の20.8%を大きく上回り、基幹的農業従事者に占める65歳未満の割合も59.5%と都府県平均の28.8%を上回る。

 

広大な土地資源に恵まれ、意欲と技術の高い農家が集まる北海道は、以下のように他県に類をみない生産力を備え、経営の安定に寄与しているようです。

平成30年度(2018年度)の北海道の供給熱量ベースの食料自給率は、前年度に比べ、天候不順の影響によって米や小麦、てん菜、馬鈴しょ等の生産量が減少(米6万7,000トン減少、小麦13万6,500トン減少、てん菜29万トン減少、馬鈴しょ14万1,000トン減少)したことにより196%と、前年度の206%に比べ10ポイント低下したが、都道府県別では引き続き全国第1位。

 

令和元年(2019年)の経営収支を経営形態別にみると、個人経営体では、1経営体当たりの農業粗収益が666万4,000円、農業経営費が551万7,000円、農業所得は114万7,000円。このうち主業経営体では、農業粗収益は1,872万4,000円、農業経営費は1,464万9,000円、農業所得は407万5,000円。
法人経営体では、農業粗収益が1億1,719万2,000円、農業経営費が1億1,391万7,000円、農業部門の営業利益は327万5,000円。

 

ただ、担い手不足や農家の高齢化といった農業が抱える課題については、もちろん北海道も例外ではありません。そこで近年は、以下のような動きが出始めています。

 

●経営規模の大きい農業経営体が増加
農家数(農業経営体数)は、2005年には約5万5,000経営体だったのに対し、2020年の調査では3万5,000経営体と、13年間で約2万も減少したが、全体の耕地面積は微減傾向に留まっている。そのかわり、1経営体当たりの経営耕地面積が増加傾向。
組織形態別にみると、減少しているのは法人化していない経営体(主に個人農家)で、法人化している経営体、特に会社法人が増加。
また、農地所有適格法人数と法人当たり経営耕地面積はともに増えており、法人化による大規模化が進んでいることがわかる。

●スマート農業による課題解決の先陣を切る
農業の担い手不足と農家の高齢化に関する問題に対して、ICT(情報通信技術)やロボット技術の導入によって解決を図る動きが全国的に推進されつつあるが、特に1経営体当たりの農地が広くまとまっている北海道は、スマート農業との相性がよいといわれ、さまざまな実証実験が行われている。

 

<以下、スマート農業実用事例>
➀恵庭市では北海道農政部生産振興局が主体となり、生産コスト削減や省力化の課題解決に向け、GPSガイダンスシステムを水稲・畑作複合経営農家に対して実験的に導入。
GPSガイダンスシステムとは、GPSによりトラクターの正確な位置を測位してリアルタイムに表示し、農作業を行う際の走行経路をガイドするシステム。
いわば「農作業用カーナビシステム」であり、効率的な運行や夜間の運転に効果を発揮。またオプションを装着すれば、ハンドルの自動操舵や作業を行う範囲のマッピングなども可能。
導入した農家が栽培を行っている主な作物は水稲・秋播き小麦・てん菜・大豆などで、そのほかの作物も併せて約2,400haの面積。
圃場に傾斜はなく四角い形状がほとんどで、家族構成は経営主とその妻、そしてシステムの操作を行った本人の3人。GPSガイダンスは、各作物の防除、土壌改良資材などの散布、秋播き小麦への追肥に活用し、システムの導入後は以下のような効果が得られた。
・作物の防除用マーカーを設置する作業が20haで7時間削減
・土壌を改良する資材の散布および防除作業の省力化(自分の場所が把握でき作業しやすい)
・夜間作業を安全かつ効率的に実施できる
・夜間作業が可能となったことで適期の作業時間を確保できる

➁網走郡ではJT農場が良食味米(うるち)生産を目的とし、ミネラル資材の葉面散布を動力噴霧器で行っていたが、作業の省力化や時間短縮を図るため、2017年にドローン散布機を導入。栽培作物は水稲で作付面積は10.9haであり、当時の従業員数は経営者の1名だけ。
・導入以前は動力噴霧に1ha当たり約1.5時間かかっていたが、導入後は1ha当たり約0.5時間と3分の1の時間まで短縮に成功。
・病害虫や雑草の防除作業にもドローンを利用することで、葉面散布と同様に作業の省力化と時間短縮に成功。

 

…以上、日本古来から続く伝統的な農業とは全く異質な農業の形が、北海道の農業事情から見えてきます。
日本の地理的条件に適応しながら「稼ぐ農」を実現していくためには何が必要か、引き続き追求していきたいと思います。

<引用元>
・北海道の農業が抱える課題とは? [2]
・北海道農業・農村の動向 [3]
・農家の平均年収 [4]

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