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『稼ぐ農』シリーズ3~「1本5000円のレンコンがバカ売れする理由」から観る稼ぐ力

このシーリーズは稼ぐ農を追求するという事で前回はサラダボウルを紹介しました。

サラダボウルの特徴は徹底した生産過程の追求、それが初めて農業をする人でも一定の成果が出せるマニュアルの開発、さらに日々の生産活動を直視し日々変えていくトヨタの「カイゼン」の取り組み。農業をビジネスとして成立させる為に既成概念を超えたあらゆる取り組みを喜々として社員達が取り組んでいること。その成功を証明するのは売上と年々増加する社員数です。2004年からわずか15年で500人11億の売上を実現してきました。
サラダボウルは農業の就労者を増やし、売上を上げていく稼ぐ農の一つの実現体だと思います。
『稼ぐ農』シリーズ1~稼ぐ力の基盤は何か? [1]

一方で全く反対の成功例があります。野口農園のレンコンです。
すでに農業書としては売れまくった著書「1本5000円のレンコンがバカ売れする理由」の著者、野口憲一さん。大衆食品であったレンコンを一代で高級路線に乗せてパッケージ販売した野口氏の手法は稼ぐ農を追求する上で押さえておく必要がありそうです。
いちごやメロン、トマトなど、すでに高級路線=ブランド化を実現して成功している農家はたくさん居ます。野口氏の成功も同じ過程を辿ったのかもしれませんが、農業のブランド化はどうやって作られていくのか、その一つのモデルとしてもこの野口氏の事例を紹介してみたいと思います。

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野口憲一氏は「ブランド力最低」の茨城県の農家出身。現在40歳で野口農園取締役兼日本大学社会学、民俗学の准教授。両親は2代目の農家で水田ができない土壌の為、レンコン栽培を始めていた。父親は野口さんには「絶対に農業はするな」と教育し、大学、大学院まで進め、民俗学、社会学の博士号を取得する。
しかしある事情で大学准教授を退き再び農業をやることになる。民俗学の学会の中でレンコンを中国で1万円で売ってこいと言われてさすがに無理だと思い、まず国内で5000円で売ろうとして販売を始める。結果数年間は全く売れず、その間に様々な人脈や企画を打ち立て、ようやく数年後に売れ始め、現在は1本5000円どころか50000円の根を付けるくらいの人気商品へバカ売れするようになる。
レンコンは手間暇かければかけただけ品質が上がる。野口氏の父親は息子に農業をやるなと言いながら、高品質なレンコンを作ることにエネルギーを費やしてきた。ただ、レンコンの価格は上がらず、手間ひまかけて普通の価格でおいしいレンコンを売るという事に終始。野口氏はそれを見ており、農業は儲からないと半ば諦めていた。

農業において稼ぐとは何か?野口氏からヒントを集めてみたい。

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>②マーケットに惑わされない
農業関係のビジネス書でよく言われていることに「プロダクトアウトからマーケットイン」へいうのがあります。簡単に言えば、生産者は売りたいものから作るのではなく売れるものを作ろう、生産者目線ではなく、消費者目線に切り替えよう、ということです。
しかし、僕の発想は逆で徹底的にプロダクトアウトに拘ったほうがよいと考えています。

友人で専修大学准教授の三宅秀道さんは「新しい商品のつくりかた」という本の中で「新企画の商品によって、つくられる最終商品は、新しい社会のありようそのもの」であり「社会が需要が潜在している商品をつくろうというのではなく、新企画商品を受容する社会そのものもセットで形つくろう」といっています。僕もこのことに賛成です。
消費者に求められているものを作りましょうだなんて、当たり前すぎることは誰にでも言えることです。僕たちが本当に作らなければならないのは売りやすい商品ではなく農家が心を込めて大切に育てた作物を、本当に大切に扱ってもらえるような社会なのではないでしょうか」
もちろん全く販売できないものを売り続けることには高いリスクが伴います。しかし僕は農家は何よりも生産者としての矜持(きんじ)を見失ってはいけないと思っています。
この方向性を貫いた結果、今では「我々が扱いたいのは『本物』なんです。真空パックみたいな、半分加工みたいなことはやりたくないんです」という取引先とさえ出会うことができるようになっているのです。

>③商品力にまさる営業はない
僕はお願い営業をしたことがありません。「お願いします、買って下さい」と頭を下げたことがないのです。農業以外の企業での営業経験が全くなかったことも影響していますが、僕が力を尽くしてきたのは「野口さんのレンコンを買いたい」と言われる商品づくりでした。結果的に、それこそが僕の「営業」手法となりました。(中略)
買い手やバイヤーや料理人が惚れ込んで取り扱った商品や食材は、彼らが熱意と責任をもって販売しようと努力するはずです。頭を下げられて契約した商品の場合、売れなくても取引先に責任転嫁することができますし、やりがいもそれほど感じないでしょう。
しかし、自分の目で確かめ「これぞ!」と惚れ込んだ商品や食材が売れれば、やり甲斐を感じるでしょうし、売れなければ自分自身に責任が発生します。そのような熱意や責任は必ずお店でのディスプレイや従業員への指導などに影響します。時にはこちらからお願いしなくても試食を作ってくれたりもするのです。
そのような熱意は、最終的な消費者にも伝わるものなのです。結果的にそのような商品や食材が売れることになる。「どうやったら売れるか」は確かに大事ですが、「商品力を高めること」は、それよりももっと大事なのです。

ヒント
① 農家は何よりも生産者としての矜持(きんじ)を見失ってはいけない
② 僕が力を尽くしてきたのは「野口さんのレンコンを買いたい」と言われる商品づくり
③ そのような熱意は、最終的な消費者にも伝わる。結果的にそのような商品や食材が売れることになる。「どうやったら売れるか」は確かに大事だが、「商品力を高めること」は、それよりももっと大事。
④ 徹底的にプロダクトアウトに拘る。生産者目線が重要。生産者は売りたいものから作るのではなく売れるものを作ろう、生産者目線ではなく、消費者目線に切り替えようというのは全く逆。

⇒儲けるには企画力も必要だし、マーケッティングも必要、生産効率も必要、人材育成も必要、経費削減も、会計的な経営力も必要・・・となるが、その根本に、いやそれらも必要だが何よりも必要なのが生産者としてきちんとよい商品を作ることなのです。
それが自信をもって消費者に○○さんの○○を買いたいと思わせる、言わせるしくみです。
野口さんはアイデアマンで企画も素晴らしいけどそれらは全てその良いものをどう売るかというトライ&エラーでした。

これは農業に限ったことではなく我々ものを作る仕事をしている誰しもが持っておく矜持(きんじ)なのではないでしょうか。

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