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シリーズ『種』3:品種改良技術の歴史① 伝統的手法~F1種子開発まで

シリーズ『種』、前回の記事では、人為的に作られた種であるF1種が作られ、世界的に広がった歴史と社会の外圧状況をさかのぼりました。F1種は、戦後の物的需要に応える釈迦潮流の中で普及し、その歴史はまだ数十年であることがわかりました。

今回から2回にわたり、品種改良技術の歴史を見ていきます。

本記事では、F1種以前の品種改良手法までさかのぼり、F1種とは何なのか?をもう少し深堀していきます。

 

1.品種改良の歴史

■1900年以前~1920年頃まで 「分離育種法」

メンデルの法則が発見され、世の中で評価、認められるようになったのは1900年と言われています。それ以前の農産物の品種改良は、専ら「分離育種法(純系選抜法)」と呼ばれる手法によって行われました。というよりも、当時は「分離育種法」などという言葉もなく、農家がそれぞれに「良さそうな個体を選抜して種取を続け、結果的に固定されていった」という方が近い表現になるかと思います。

原理を理解して行われたわけでなく、また国家的に行われていたわけでもなく、個々農家がそれぞれの経験と勘に頼りながら細細と行われていただけでしたが、その結果、全国各地に、様々な固有の品種や品目が受け継がれていました。

 

それ以降、詳しい経緯は調査不足なのですが、1920年頃までには、世界中の主要在来種が、優良な純系品種に置き換わったといわれています。おそらく、国や府県などの公的機関によって品種の選抜が行われ、優良な純系品種を地域・全国に普及したものと思われます。例えば、日本におけるイネの純系種として有名な「旭」「亀の尾」「愛国」などの品種は、1880年~1900年頃に発見され、公的機関により認可され、1920年頃には全国的に普及していました。

 

■1900~1930年頃 「交雑育種」の普及

分離育種法による改良には、長い年月を要します。メンデルの法則が発見されて以降、もっと効率よく品種改良を行う手法が研究され、異なる性質を持った2品種を交雑させる「交雑育種」が盛んにおこなわれるようになります。

 

初期の交雑育種では、交雑させた雑種1代目(F1)から、2代目(F2)→3代目(F3)→4代目(F4)・・・・と種取りを繰り返し育てながら、性質を固定していく手法がとられました。F2やF3では、狙った性質以外の個体も出てきてしまいますが、その中から交雑によって得られた優良な形質の個体だけを選抜して固定していくのです。

 

ちなみにですが、この手法は、現在の日本でも、イネの品種改良の主流となっている手法です。日本で最初に、交雑育種によってつくられたイネは、1921年に政府の農事試験場で作られた「陸羽132号」でしたね(→前回記事 [1])。ただ、中国や米国ではF1種も普及していますし、日本でも、吉野家の米として有名な「みつひかり」など一部はF1種となっています。

 

■1940~1950年 「F1品種」の台頭~F1種とは?

分離育種法によってつくられる雑種第1代(F1)には、F2以降では得られない特殊な性質があります。それを利用し、F1だけを販売している品種が、F1品種です。

 

日本で、というより世界で最初のF1種は1926年の埼玉試験場で作られたナスでしたね。これ以降、戦後を通じて、全国をF1種が席巻していったのは、前回記事 [1]の通りです。

 

F1種の性質①:形質が均一にそろう

メンデルの第一法則「優劣の法則」により、異なる形質を持つ親をかけ合わせると、その第一代の子(F1=雑種第一代)は、両親の形質のうち、優性だけが現れ、劣性は陰に隠れます。あらゆる形質でこの優性遺伝子だけが発現するため、交配種野菜は、一見まったく同じ形にそろいます。

ただし、F1種から種取をして育てたF2=雑種二代では、1/4の確立で劣性が発現します。そのため、形質はバラバラになってしまします。

この法則の利用し、実際の品種改良では、形・大きさ・色などの見た目だけでなく、味の良いもの、生育の速いもの、もしくは遅いもの、疫病への対抗性や抵抗性の強いもの、暑さに強いものなど、様々な特性をもった品種を意図的に改良できるようになっているのです。

 

F1種の性質②:生育が早く、収量も多い

異なる種や品種同士を交配させてできたF1は、両親のどちらよりも優れた性質を示すことが多い、という性質があります。これを雑種強勢といって、F1で最も強く現出するといわれています。

ちなみに親同士が遺伝的に離れていれば離れているほど雑種強勢は起こりやすくなることがわかっています。しかし、なぜ雑種強勢が起こるのか、その原理解明はされておらす、今も研究されているのです。

 

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画像はリンク [3]からお借りしました。

 

 

2.F1種子はどうやって作られているのか?

植物の多くは、1つの花の中に雄しべと雌しべがあり、開花してしまうと、自家受粉(同じ品種の雌しべと雄しべが受粉)してしまいます。異なる品種を交雑するためには、母本となる品種の花の花粉が自家受粉しないうちに、父本となる品種の花粉を受粉させる必要があります。

そのようなことをどうやって行っているのでしょうか?

 

実際の作業工程を、リンク [4]引用します。

実際の採種手順は、次のようになります。まず、種苗会社の生産部員が、契約している採種農家を束ねている人に、母親と父親になるナス科野菜のタネを渡します。(ちょうどトマトの除雄作業の写真=下参照=が手元にありましたので、以後は同じナス科作物のトマトを例にとりましょう)

 タネを託された人(採種ブローカーとか現地採種組合の役員)は、託された母親と父親のトマトのタネを、個々の採種農家に割り当て、母親と父親を間違えないように念押しして、通常のトマト栽培をしてもらいます。ただ、母親の花が咲いた時、父親の花が咲いていないと、花粉交配ができませんから、父親のほうを数日先にまいてもらうようにします。また父親の株数は、母親の株数の20%程度でいいと言われています。
また、栽培し、交配している過程では、採種農家には、「自分が採っている種が、種苗会社のカタログの何というF1トマトなのか」ほとんど分りません。というより、分っては困るので、種苗会社では、まとめ役の人に両親の種を渡す段階から、それぞれの記号しか知らせていないのです。

 さて、どんなトマトの子が生まれるかわからないが、採種農家の畑に植えられた母親と父親の二種類のトマトは、葉を伸ばし、花房に蕾を付け、交配時期を迎えます。母親株が開花する二、三日前、蕾が膨らみ、少し黄色く色づいてきたら、小さなトマトの花の蕾を開き、先の尖った細いピンセットで、雌しべに密着している6~8本の雄しべを、すべて抜き取ります。この時、雌しべに傷をつけないよう、細心の注意を払います。これを畑の母親株全部で、毎日毎日、二か月間近くくり返すわけですから、交配作業の大部分の労力は、この除雄作業に費やされていると言えます。

 除雄は毎日必ず行い、たとえ雨で交配作業ができない日でも、除雄だけは行っておくこととされています。雌しべの受精能力は、4~8日間もあるので、やがて晴れた時、一斉に交配(受粉)作業ができるからです。もし除雄適期に遅れると、母親トマトが蕾の中で自家受粉してしまうこともあります。こんな種が販売F1種子に混じると大変なので、除雄しそこなった花は、すべて取り除いて、実を付けないようにします。

除雄しておいた蕾が開花したら、父親トマトの株の花を揺すり、小さな容器に花粉を集めます。集めた花粉を、母親トマトの雌しべの柱頭に右手の小指の先でなすり付けて受粉させてやれば、この花の交配は終了です。交配後は、終了した目印に、周囲のがくを2枚、小鋏で切り取っておきます。もし交配作業の途中で、除雄もれや除雄不完全な花を見つけたら、見つけ次第小鋏で除去するのを忘れてはなりません。

 

 

この作業が非常に手間暇がかかります。

交雑育種でも、F1→F2→F3→・・・と種取を繰り返して固定させていく手法では、この作業は1回で済みます。

ところが、F1品種として販売しようとしたときには、毎回この作業をしなければならないのです。途方もない作業量になってしまいます・・・・

そのため現在に至るまで、この作業の効率化するための技術がいろいろと開発されてきました。

また、もっと効率的に狙った形質を得るための品種改良技術も開発されていきました。

次回は、原初的なF1種開発手法以降、品種改良の技術開発はどのような変遷をたどっていったのかを見ていきます。

 

【参考】

https://www.rice-assoc.jp/seed/64-2018-03-30-06-18-42.html [5]

https://noguchiseed.com/hanashi/f1/f1_2.html

http://www.nohken.or.jp/1-2fujimaki.pdf [6]

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%AD_(%E7%B1%B3) [7]

http://blueocean.main.jp/oishiiokome/hinsyukairyou/houhou.html [8]

<356B5F31363036313430303435816991BA90A38F948CFB81758DEC95A88CA48B8636318D868176816A967B95B62E696E6462> (jst.go.jp) [9]

 

 

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