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【世界の食と農】第7回 ロシア~農業にも貫く民族自決の精神~

前回に引き続き、今回もロシアの農業についてみていこうと思います。

前回の記事で紹介した「ダーチャ」という制度に代表されるように、農業においても民族自決の精神が息づくロシア。
この精神がロシア農業の政策や体制にも反映されています。

●国民8割の農業従事者に支えられた三位一体の農業体制

ロシアの農業生産主体は大きく『農業組織』『住民経営』『農民経営』の3種類に分けられます。簡単に紹介します⇓

『農業組織』…ソ連時代のコルホーズ(国営農場)やソフホーズ(集団農場)が民営化されたもの。この歴史はやや複雑ですが、ソ連時代、地主による独占的農場を解体し、国有化・集団化したものがコルホーズやソフホーズ。しかし農業従事者の意欲低下や生産の非効率さが裏目に出て、ソ連解体後民営化されたという経緯がある。
近年ではアグロホールディングと呼ばれる大規模企業グループが形成されるなど農業組織間の淘汰圧力は高い。

『住民経営』…自給自足を目的に、農村住民が自宅周辺地で行ったり、ダーチャのように都市住民が農村に土地を持って行う副業的農業

『農民経営』…コルホーズなどの民営化過程で独立した個人が経営する農業。

農業組織は主に穀物や乳製品のシェアが高く、しかも生産量を大幅に上昇させています。ソ連時代には穀物の約5割を輸入に頼り、更にソ連解体後はウクライナなどの農地を大幅に失ったにも関わらず、2000年以降、急激な成長によって今やロシアは穀物の『純輸出国』となっています。その背景には農業以外の企業参入による技術向上や国による淘汰戦略があるとされています。
住民経営は野菜や牛肉のシェアが高く、全体の7~8割を占めます。
農民経営は他2つに比べると限定的な存在に留まりますが、穀物生産においてシェアを伸ばしつつあります。

このように、ロシア農業体制の特徴は、それぞれ3つの生産主体がバランスよく農業生産物のシェアを分かちつつ、国全体の生産量を支えている点です。
国民8割がいずれかの農業生産組織に属しており、国の支援はありつつも、「国民全員が農業の主体であること=農業が国民の生活と切り離されていないこと」が、この体制を支える基盤となっています。

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画像はこちら [2]からお借りしました。

 

●『クリーンな農業』を目指す、ロシアの農業政策

ロシア農業は『非効率で遅れた技術』と批判されことがあるようです。これは、欧米に比べ、単位面積当たりの収穫量が少ないことが関係しています。ロシアもそれを部分的に認めていますが、この批判を逆手に取った政策にも注目が集まります。
例えば、ロシアは世界に先駆け、真っ先に遺伝子組み換え作物を研究⇒否定した国でもあります。2012年にはGM食品の輸入を禁止、2016年には栽培と生産を禁止しています。ロシアは自国の農業を『クリーンな農業』として世界に打出し、一方でコンピューターや農薬、遺伝子組み換え技術などのテクノロジー開発に邁進する欧米の大規模農業を痛烈に批判しています。

プーチンは2016年1月9日「GM食品および西側の医薬品産業からロシア人民を守ることを命じる大統領令」でこう述べています。

「我々は生物種として、肉体や脳を上昇軌道に乗せて健康的に発展させ続けるか、あるいは、西側諸国の模範に倣い、本来ならば危険で中毒性のあるドラッグとして分類されるべき遺伝子組み換え食品、医薬品、ワクチン、ファストフード等を意図的に摂取することで我が人民を毒殺するかの選択を迫られている。我々はこれと戦わなければならない。肉体的・精神的に病んだ人民を生み出すことを我々は望んではいない」

 この声明に世界の多くの人々が賛同し、有機栽培やオーガニック食品の需要は今でもどんどん高まっています。
「自分たちの食と健康は自分たちで守る」その意志の強さが、世界の大潮流を動かしてきたのですね。

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