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【農の歴史】第5回 縄文人は農耕をなかなか受け入れなかった?

今回からはいよいよ農の歴史・日本編!
農業は日本でどのように広まっていったのでしょうか。
まずは古代、縄文時代まで遡ってみたいと思います。

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※画像は http://www.nanamiya-aidma.jp/design/is_education_22.htm よりお借りしました。

最近の研究では、農耕文化の先駆けとなる穀物栽培の技術は縄文時代中期(今から5000~4000年前)には既に日本列島に伝わっていたという説があります。しかし、縄文人が農耕を始めたのは縄文時代晩期(3000~2000年前)とされています。この約2000年間、縄文人が農耕をしなかったのには何か理由があったのでしょうか?

有力なのは「必要なかった」という説です。
以前の【農の歴史】記事で、農耕の起源は、「寒冷期に食材が採れなくなったから。」という説を紹介しました。「食うために、仕方なく始めた」というわけです。

縄文中期の日本はとても豊かな環境でした。春には山菜を採り、夏には漁労をし、秋には木の実を拾って、冬には狩猟をする。人々は非常に豊かな自然の恵みに支えられて生きていました。そんな縄文人にとって、わざわざ大変な農耕を始める必要がなかったということです。

 

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※画像は http://www.nanamiya-aidma.jp/design/is_education_22.htm [3] よりお借りしました。

 

しかし、「必要なかった」だけで終わらせられないような事実もいくつかあるようです。
確かに、縄文人が農耕を始めたとされる縄文晩期は日本にも寒冷期が訪れ、それが縄文人の食生活に大きな影響を及ぼした時代とされています。
ただ、九州から始まった農耕、一気に日本中に広がるかと思いきや、西日本に広がるだけでも、実に400年の年月が掛かっています。
その「遅さ」から、厳しい環境下でも「敢えて」農耕の選択をしなかった縄文人がいたのではないか!?と考える人も少なくないようです。

ではなぜ農耕をしなかったのか?これもたくさんの説がありますが、幾つか代表的なものを紹介します。

①農耕に適さない風土だった説
日本は世界でも有数の火山大国。日本列島には、太古から、何度も火山灰が降り注いでいますが、とくに多量の火山灰が積もった場所には「黒ボク土」という土が生成されます。この「黒ボク土」、植物の発育には適さない土とされています。
現在も北海道、東北、関東、九州には、この黒ボク土が広く分布していますが、縄文時代にもこういった土壌環境が影響して農耕が広がらなかったのではないかという分析があります。

 

②「狩猟採集文化」と「農耕文化」のバッティング説
狩猟採集民族と農耕民族の文化の違いはよく指摘されますが、やはりその最たるものは「自然観=自然への適応方針」かと思います。
ジェームズ・C・スコット氏による『反穀物の人類史』によると、狩猟採集民族の動植物に対する「見方」は農耕民族のそれとは全く違うと言います。
狩猟採集民は自然に対して常に「何が起こるか分からない、未知の存在」として認識しています。時には恵みを与えてくれる感謝の対象であり、時には災害をもたらす畏れの対象です。人々はそうやして常に変わり続ける外圧に「今」「どうする?」をひたすら考えているのです。あくなき自然への同化追求=一体化追求が意識の根底にあるとも言えます。
それに対して、農耕民族にとっての自然は、(未知は未知なのですが)ある意味「こうあるべき(こうあってほしい)」という「正解」を探る対象です。ここで言う未知とは、「あるべき理想との差」のことであり、追求とは「あるべき正解に正す」行為と言えるかもしれません。
余談ですが、農耕牧畜は私権意識⇒略奪戦争の起源という説がありますが、この、「自然を人間のために“正す”」という意識は、自然を支配し、破壊する近代科学につながっている可能性もありますね。

とはいえ、これらの意識やそれに基づく適応方針は、どちらも確固たる「伝統」であり、「さあ、今日からはこっちだ」と、簡単に切り替えられるものではないのだと言います。

今となっては農業は日本人にとって欠かせないものとなっていますが、当時の人たちには、文化的にも技術的にもたくさんの葛藤があったと推測できます。
その中でも、何とか自然と調和しながら生きていく術を追求していったに違いありません。

 

…少し長くなってしまいましたが、今回はなんとも奥が深そうなテーマ。
かなりいろんな視点からの分析が必要そうですが、ああかなこうかなと、その時代や人々に想いを巡らすのはやはり面白い!

また、このテーマは、日本の農の成り立ち・あるいは未来を探索するのにとても重要だと思うので、数回に分けて調査を進め、塗り重ねていきたいと思います。

次回もお楽しみに~^^

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