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農業は脳業である10~田んぼに新たな生態系をつくりだす

無肥料・無農薬で米ができるか。

突破口は、「田んぼに新たな生態系をつくりだす」という発想。

 

以下、転載(「農業は脳業である」2014著:古野隆雄)

■ひときわ高い循環永続性
オーソドックスな有機農業の野菜づくりでは、可能なかぎり”単作”はしない。すでに説明した田畑輪換や輪作、そして混植によって多様な種類を栽培し、雑草や害虫や病気の発生を極力回避してきた。光や養分が互いに競合しない作物をいっしょに植えるのが混植である。たとえば私は、ナスの両側にインゲンを、トマトの根元にツルムラサキを植える。

それに比べて、省力化して短期的生産力ばかりを重視する近代化稲作では、そして有機稲作でも、同一品種(たとえばコシヒカリ)の稲ばかり連作されている。そう、近代化稲作も一般の有機稲作も、一年周期の”モノカルチャー”なのである。

このモノカルチャー稲作の田んぼに、柵で囲い込んで合鴨君を放す。それ自体が生態系を多様化させる。さらに、稲作、畜産(合鴨)、アゾラ(浮草)、水産(ドジョウ)と水田の多様な生産力を全面展開する。パーマカルチャーの提唱者ビル・モリソンは、これをフードジャングルと称した。

そして、多様化の結果として雑草や害虫の発生が抑制される。田んぼの中に稲と合鴨と水田生物が共存する新しい多様な生態系を創造するのが、私のめざす合鴨水稲同時作である。アゾラを組み込んだ結果、多様化はさらに進んだ。創造的に多様化し、生産力は落とさない。むしろ、六つの合鴨効果で増収も可能になる。また、アゾラを食べた合鴨君の糞には窒素分が豊富に含まれている。つまり、窒素分を稲に吸収されやすい形に変換しているわけで、これも増収につながる。

 

近代化稲作の発展過程は結局のところ、人間労働を海外からの化石エネルギーの大量投入に置き代えて省力化し、外部からの投入をかぎりなく肥大化してきた過程といえるだろう。いわゆる有機稲作においては、たしかに工業製品の化学肥料や農薬は使用しないから、直接的な環境汚染の度合は少ない。しかし、家畜の餌のトウモロコシや大豆は多くの場合、海外に深く依存している。堆肥や有機質肥料を自給できてはいない。大半の有機稲作はアメリカ(海外)の地力の上に成り立っていると言っても間違いではない。

一方、合鴨水稲同時作の田んぼへ外部から投入されるものは、原則として、合鴨の餌となる少量のクズ米にすぎない。合鴨が食べた草や虫が糞をとおして養分となり、稲が育つ。近代化稲作だけでなく一般の有機稲作と比較しても、合鴨水稲同時作は際立って循環永続的なのがよくわかる。アゾラ合鴨水稲同時作は、さらに創造的・循環永続的だ。空中窒素を固定したアゾラをタンパク源として合鴨が食べ、糞をする。その糞に含まれる窒素が稲の養分となる。実際、2014年の私の合鴨水稲同時作は堆肥も有機肥料もほとんど散布していないが、稲は豪快に育っている。
もちろん、この四つの循環はあくまでモデルであり、実際にはさまざまな変型がある。たとえば、合鴨田に堆肥を入れている人は少なくない。

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