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コロナ禍後をみすえて  いま、農家力・地域力を高める時

本日は、農文協の緊急特集記事です。

昨年の年末から始まったコロナ禍。未だに収束の気配はなく、いつまでこの状態が続くのかは、全く予測がつきません。

一方、この状態に適応する形で、様々な産業において、これまでの働き方が変わってきており、人々のライフスタイルも変革の状況にあります。

そのような中において、これからの農業はどのように変わっていくのか?農文協の編集者が今回のコロナ禍において農家の現実の有り様に接する中で、今後の「農のかたち」に肉薄します。

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今月号の緊急企画「コロナで見えた農家力」に込めた編集者の思い…。

――農家は「3密」とは対極の田畑で、日々地道に働いて、食べものをつくり出している。そこには、地に足をつけた暮らしの強さ、確かさがある。世の中が変わろうとしている今、「農家力」が新たな世界を切り拓くカギになるはずだ。

農家、農村に取材に出かけることができない状況のなか、多くの農家から原稿をお寄せいただいた。そんな農家の声を励みにしながら、「新たな世界」を切り拓くカギになる「農家力」について考えてみたい。

 

■発揮された自給、加工、共同の力

「農家力」というと、その基本はやはり「自給」なのだと、改めて思い知らされる。

10年前に新規就農してネギ農家になった静岡県磐田市の小城寿子さんは、「ネギ農家が米をつくりたくなった話」を寄せてくれた。

「有事のときもお米さえあれば大丈夫かも!? 今回のコロナ騒動で、真っ先に考えたことがこれです。保存がきいて主食になるお米があれば、突然収入が減っても少しは気持ちに余裕が持てそうですよね。しかも、パンデミック(世界的大流行)となると、急激な感染拡大で食料品の流通や販売がストップするかもしれません。そんなときはいくらお金があっても食べるものが買えず、生きていけないのです。

『お米さえあれば……』は極論かもしれませんが、あながち間違いともいえないでしょう」。

こうして小城さんは、安くて小さい田植え機をネットで探し、知り合いのつてで田んぼを借り、近所の稲作農家やJA職員に相談にのってもらい、自家用米づくりをスタートさせた。

「多くの方々のご協力に感謝です。こんなご時世だからこそ、人とつながる1次産業のよさを再認識できました」。

熊本県菊池市の村上厚介さんのところでは、近くに住む仲間たちから「これから経済破綻など何が起こるかわからない。自分の食べ物は自分でつくりたい」と相談があり、みんなで手植え、手刈り、天日干しで1町6反の米づくりを進めるという。

飲食店へ米を販売してきた愛知県大口町の服部農園・服部都史子さんは、キャンセルが相次ぐなか、チラシなどで「私たち、この町の農家です! お米売ってます!」とアピール、分づき米など米のラインナップを充実させて、直売所のお客さんを増やしている。

「今回のコロナ騒動で、就農当初の『この町の、顔が見える人たちに食べてもらいたい』という想い・原点に立ち返った感じですね。地域の方もだんだんと、私たちからお米を買うことが地元の農業の応援につながると、認識し始めてくれています」。

自給の延長にある地産地消や加工などの力も大いに発揮されている。

福岡県朝倉郡の筑前町ファーマーズマーケットみなみの里では、売り先がなくなった学校給食用キャベツを、子どもたちにたくさん野菜を食べさせたいと、冷凍お好み焼きに大変身させた。大阪府能勢町の伊藤雄大さんは、売り先に困っている農家とともに野菜セットをつくり販売、「届ける直売所」だ。

学校の職員や旅館など、仕事を失った人々の雇用を農家が受け皿になっている取り組みも紹介した。「雇用」というより、困ったときの助け合いだ。

 

■攻撃にさらされた相互扶助のしくみが国民を支えた

ところで、新型コロナは飲食業や観光業、文化事業にかかわる人々などに大変な痛手をもたらしているが、パニックや混乱が起きているわけではない。国民は不安を抱えつつ自粛生活を受け入れ、身動きがとりにくいなかでも、人とのつながりや助け合う小さな工夫を大切にしている。外出自粛には、自分の安全だけでなく「人さまに迷惑をかけたくない」という気持も強く働いているように思う。これは人々が持ち続けている共同の精神のあらわれなのではないだろうか。

これをたどっていくと、農家や庶民が伝承してきた相互扶助の精神に行きつくような気がする。近代市民社会的にみれば民主主義、あるいは「一人は万人のために、万人は一人のために」という協同組合の精神ということになろうか。

農協も、人手不足で悩む農家と仕事を失った地域の人をマッチングするなど、国民への食料供給にむけて地域の農業を守ろうと奮闘している。布マスクを手づくりして地域の人々に無料配布したJA女性部も少なくない。

数十年前から宅配事業を手掛けてきた生協は、急激に増えた需要に応えようとがんばっている。医療の現場でも、医療の崩壊を食いとめよう必死だ。

コロナ禍のなかで国民の生活を支えているのは、規制改革会議や安倍官邸政治が進めてきた経済至上主義と競争原理、食料の海外依存と農家減らし、JA解体攻撃、地域医療縮小路線ではなく、そんな逆境に抗い、守ってきた地域農業、地域自治、協同組合などの相互扶助のしくみなのである。

 

■注目したい「地域づくりの重要性と出口戦略の提言」

それでは、農家力がカギとなって切り拓く「新たな世界」はどのような世界で、どのように切り拓かれるのだろうか。ここで、一つの提言に注目したい。

持続可能な地域社会総合研究所・所長の藤山浩さんは5月1日、「コロナ危機下における地域づくりの重要性と出口戦略の提言」を発表した。藤山さんは農文協刊「シリーズ田園回帰」(全8巻)の第1巻『田園回帰1%戦略 地元に人と仕事を取り戻す』の著者。本書は販売部数1万部を超え「田園回帰」のバイブル本として評価されている。その後、藤山さんの編著で「図解でわかる田園回帰1%戦略」(3部作)も発行され、田園回帰の現場での実践書として自治体職員などで活用されている。

 

藤山さんは、この提言の冒頭でこう述べている。

「私たちは、コロナ危機に対して、むしろ従来から共に取り組んできた地域づくり手法を活用しその体制や取り組みを進化させることが、長期的な視点において持続可能な地域社会実現につながると考えています」。

自治体の中には、地域づくりの取り組みを一時棚上げして、コロナ危機に集中しようとする動きもみられるが、いまこそ地域づくりのギアを入れる時だ、というのが藤山さんの主張だ。

提言では、ウイルスの爆発的な流行の背景には、「大規模・集中・グローバル」という今の文明の設計原理があること、そしてこの危うさを直視して、東京一極集中を解消し、持続可能な循環型社会へと舵を切る時が来ていることを指摘する。さらに、ウイルス危機だけでなく、例えば国内でも首都直下地震、世界的には地球温暖化といった巨大リスクが待っているとしたうえで、転換の方向についてこう述べる。

「循環型社会への転換を図るのであれば、『小規模・分散・ローカル』の設計原理で動く地方の出番となります。経済対策は未来志向で進めるべきです。再生可能なエネルギーや資源の多くが存在する農山漁村を甦らせる国民的な事業が必要だと考えます」。

そして「地方の独自性と潜在力を活かす戦略」として

①自治体ごと、地域ごとのデータ分析が出発点

②地域ごとの危機の現状、弱み、強み等の見取り図を描く

③今こそ、お金を地元でしっかり回していく

④計画的な田園回帰、定住促進の実施

の4点をその方法とともに提示する。田園回帰をめぐってはこう述べる。

「このままでは、東京をはじめとする大都市で大量の失業が発生します。リモートワークが可能なら、よりリスクが低く再生可能資源に恵まれた地方定住が進むでしょう。もちろん、大量の地方移住を直ちに行なえば、感染拡大の引き金となってしまいます。客不足で喘いでいる観光施設や空き校舎、空き家等を活用して待機施設をつくり、計画的に進めていくのです」。

地方への移住希望者は増えているが、しばらくは感染拡大の懸念もある。そこで待機施設をつくり、安全の確保と移住にむけた学習や準備をすすめてはどうか、ということで、藤山さんも島根県内の自治体と協議を始めたという。

 

■まとめ

こうして、今回紹介された、農業従事者の現実の活動に目を向けますと、単に農作物を提供するといった効率第一の仕事のあり方はすでになく、相互扶助による社会の変革にまで実態は動いています。

更に、彼らは、お上(政府)からの指針や規制改革に従うといった流れではなく、自主自立の精神の元、地元地域の人々と一体になりながら、共存共栄に向かうことがこれからの自らの活動を確固たるものとするし、更に、都市からの定住者の受け入れも視野に入れるといった現実も見据えています。

自らの生き方は、自らが決める。そして、地域づくり手法を活用し、その体制や取り組みを進化させていけば、長期的には、持続可能な地域社会実現に向かう。

この姿は、あらゆる産業に先駈けて、先端に収束する「新しい農のかたち」=本源社会のひとつの姿とは言えないでしょうか? では次回もお楽しみに

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