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土の探求9~遺伝子組み換え作物が招いた、無用な”いたちごっこ”

栽培効率の向上と減農薬を謳い文句に、遺伝子組み換え作物は導入された。

しかしそれから数十年経った現在、いまだ目標は実現されていない。

それどころか、導入によって引き起こされた新たな問題が、無用な”いたちごっこ”を農家たちに強いている。

そして最も重要なことは、”いたちごっこ”に奔走する一方で、農業の未来議論に欠かせない本質課題=土壌肥沃度の再生、その追求が捨象され続けてきた、という事実だ。

 

以下、転載(土・牛・微生物 著:デイビット・モントゴメリー)

■遺伝子組み換え作物が招いたいたちごっこ
数十年前、遺伝子組み換え作物の支持者は、収穫量の増加と肥料および農薬の使用量減少を約束した。それは実現したのだろうか?

全米研究評議会の遺伝子組み換え作物委員会による2016年の報告書は、「アメリカにおけるトウモロコシ、綿花、ダイズの全国的データには、収穫量の増加率に遺伝子操作技術が影響した顕著な形跡が見られない」と述べている。これは農薬使用にとって善し悪しだ。除草剤抵抗性のある作物は、広範囲に効き目を持つ除草剤グリホサートの使用を1996年以降、大幅に拡大した。その結果、グリホサートに耐性のある雑草が広まり、他の除草剤の使用も増えている。一方、遺伝子組み換えBt作物(害虫抵抗性作物)は殺虫剤の使用量を5%以上減らし、環境への悪影響が特に大きい殺虫剤が広く使われなくなるのに一役買った。それでも全体としてアメリカでの殺虫剤の使用量は、2012年の研究によれば、遺伝子組み換え作物の採用の結果、約7%増えている。収穫が増えて農薬使用量が減るという主張は支持されないようだ。

だが、遺伝子組み換え作物は環境への利益を多少もたらすという研究結果も報告されている。特筆すべきは、グリホサートを用いると簡単で融通の利く効果的な雑草抑制ができるようになり、不耕起栽培が増えて土壌浸食が減ったことだ。またBt作物の採用により一部の毒性が高く広範囲に作用する殺虫剤の使用が減った。しかし遺伝子組み換え作物は新しい、そして予想もしなかった問題も引き起こしている。遺伝子組み換えトウモロコシとダイズが広く採用されてからわずか数十年で、除草剤抵抗性のある雑草とBt抵抗性を持つ貪欲な線虫(顕微鏡サイズのミミズのような生物で植物の根を食い荒らす)がたちまち重大な問題となった。これはつまり、今日の農家は現状維持のためだけに出費と労力を増加し、勝つ望みはないが負けるわけにいかない闘争を挑んでいるということだ。

しかし農業の未来をめぐる闘争が、有機農法と遺伝子組み換え作物のような農業科学技術の二者択一として提示されるなら、それは誤りだ。むしろそれは哲学の相違、栄養循環と土壌の健康を向上させることに基づいた農業慣行か、それとも土壌肥沃度を枯渇させ、低下した土壌の健康を技術と工業製品で置き換え、あるいは埋め合わせようとするかというものなのだ。たいていの場合、後者が短期間のうちには、特に土壌が既に劣化している場合、経済的に見合う。そこに我々が直面する現代の危機の核心となる、真の困難がある。つまり農家に商品を供給する企業の当面の金銭的利益が、農地の土壌の健康と肥沃度を維持するという全体の利益と必ずしも一致するわけではないということだ。

農家の短期的な利益と社会の長期的なニーズを、どうすれば一致させられるだろう?それには伝統的な知識を、新しい農業システムを特徴づける現代の慣行に合わせてアップデートすることだ。そうするためには、私たちは土にかかわるもう一つの神話~土壌有機物は植物の養分ではない~を再考する必要がある。直接的には、もちろん、その通りだ。植物は炭素を光合成によって大気中から得る。だが、有機物は間接的に土壌生物の餌となり、周知のとおりそれは、植物の栄養と健康に重要な役割を果たす。奇妙なことだが、生命を土に取り戻す可能性は、私たちが死んだものと目に見えないもの~有機物と微生物~をどう見るかにかかっているのだ。

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