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農をめぐる、世界の闘い13~先端を行くラテンアメリカⅢ.給食改革の根底に流れる志

戦後導入された「学校給食制度」が象徴するように、離乳食の段階から支配され続けてきた日本の「食」。
(参考:【奇妙な学校給食のルーツは戦勝国/米国の対日戦略に始まる】 [1]

将来世代のために、私たちが守り育てていくべき「食」とは何なのか。

ブラジルは、給食制度の改革を通じて、次代を生きる国民の健康、郷土食の文化、その基盤となる”農”を守り育てようとしています。

 

以下、転載(タネと内臓 著:吉田太郎)

■アグロエコロジー給食で子どもたちの健康を守る
アグロエコロジーの地域や国家戦略を開発するため、FAO(国連食糧農業機関)はヨーロッパ、アジア、アフリカ、ラテンアメリカと各地域会議を開催してきたが、2015年6月に最初の地域会議が開催されたのはブラジリアだった。ラテンアメリカ、それもブラジルに白羽の矢が立てられたのは、キューバやブラジルの努力によってアグロエコロジーが最も大きく進展したからだ。

地域会議では、デ・ソウザ農業開発大臣はこう主張した。
「食にアクセスできることは基本的な人権である。しかしながら、食の質、栄養価を抜きにして、ただ量的に増産するだけでは健康や生命を効果的に守ることはできない。なぜなら、いま化学農薬や遺伝子組み換え種子が使われているからだ。我々は、病気や死につながるのではなく健康やいのちを育むことにつながる有益な食べ物を必要としている。このことから、農薬や遺伝子組み換え食品、遺伝子組み換え種子を使わずに、持続可能なアグロエコロジー農業を進める必要性は明白である」

大臣が主張するようにブラジルは農業において相反する二つの顔を持つ。企業型農業が支援され、ダイズと牛肉の世界最大の輸出国として大量の農薬が使用されている一方で、ルラ元大統領のゼロ飢餓政策によって貧困や飢餓の解消に取り組み、2014年には国連の飢餓マップから脱却することに成功する。そして、飢餓と貧困に対応するための柱となった政策は、連邦学校給食プログラムだった。保育所から成人教育までどの公立校でも最低一回は無料の食事を保証され、かつ、連邦学校給食資金の70%が自然な食材か高度に加工されない基本食材に支出されなければならないと法律で規定したのだ。モンテイロ教授は、それは世界にとってのモデルだと語る。
さらに、栄養面での食の質を改善するため、2009年には連邦学校給食資金の30%を家族農家が生産した農産物に支出すべきとの法律を可決する。この学校給食法が家族農家にとっては「革命」となった。以前は低収入のためにやむなく離農し、学歴がないために都市でも最低賃金で苦しんでいた農民たちが、子どもたちのための食材を作れば収入が倍増するとわかり農村に戻って来たのだ。ルラ元大統領は飢餓と貧困の解決のために家族農家を重視した。食料の70%を生産しているのは家族農家だからだ。そして、栄養問題と農地改革とを合体した強力な社会運動を展開した。学校給食プログラムの根底には、本物の食べ物や食文化の尊重、家族農業に対する支援という原則が流れている。

デ・ソウザ大臣は、さらにこう続ける。
「家族農業は、アグリビジネスに比べて遅れているとの理解がある。しかし、これは誤解である。現在、家族農業を支えるため『家族農業プラン』を実施し、ローカルな種子、在来種、伝統的な種子を守り、その生産を支援している。2015~2016年には、『家族農業と健全な食計画』を立ち上げた。こうしたイニシアティブは、ブラジルの文化を保全してアグロエコロジーを強化する重要な要素である。」
「そして、国連は『国際土壌年』を創設したが、各国はこれを論じ、未来を熟視しなければならない。各国はどのような世界を将来世代のために残したいのであろうか。食の安全、食の質、そして、より良き暮らしの質を担保することと土壌がむすびついていることがいったい、いつ認められるのであろうか」

土壌と微生物の専門家として、自然界の絶妙な共生関係について、テレビ等のメディアで精力的に発信しているオクタヴィア・ホップウッド氏は、こう語る。
「人口が増える中、量を確保する必要性に迫られて、食べ物の質が犠牲にされてきた。ごく少数の必須元素だけを与えれば、植物の成長は促進される。育つ作物も見かけは大きい。けれども、健康や活力に寄与するミネラルを大幅に欠いている。医学や栄養学での認識が高まっているにもかかわらず、高い生産性と低い質というアンバランスに私たちは慣れてしまっている。カルシウムで強くなる骨、鉄を豊富に含む血液、健全な免疫系のためのセレン、心臓を守るコバルト。ナトリウムとカリウムのバランスで生じる神経のインパルス。感情や感覚でさえミネラルで動いている。私はそれを『ディープな栄養』とみなしたい。生命の繁栄は、ミネラルを豊富に含む食べ物、土壌微生物が豊かな健全な土で育てられた食べ物を食べることによってのみ達成される」

ブラジルは、国家アグロエコロジー・有機農業生産政策を展開しているアグロエコロジー先進国だが、なんということはない。ミネラルを含む質が高い食べ物。そして、これまで述べてきた反遺伝子組み換え作物、土壌微生物、在来種のタネの保全、そして、家族農業に対する支援は、すべてがつながる同じコインの裏表だったのである。

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