前回の投稿「6~意識潮流と農産物直売所の系譜~」では時代背景と人々の意識潮流の大変化を受けて農畜産物直売所(以下、直売所)の理念がこの60年間で「地域・集団の再生」「農・自然の再生」「ネットワーク化・社会形成」と積み重ねられて変化してきていることが明らかになりました。
ここで起きている「私権収束(自分の為に)」から「共認収束(みんなの為に)」という潮流は今後100年は続いていくものと考えられます。
そこで、今回は先端事例の紹介を含めて、直売所が具体的にどのように人々の期待に応えていけるかを考えていきます。
●本物の価値の追求
「直売所」が消費者と信認・信頼関係を形成する上でまず重要になるのが、自らが本物の食、農を創っていくという気概です。直売所の可能性である「集団・地域の再生」や「農・自然の再生」、「ネットワーク化・社会形成」も生産者や消費者との信頼関係なしには成り立ちません。
全国に広がる直売所の中でも屈指の成功事例といわれる「みずほの村」(茨城県つくば市)では、設立から20年以上様々な手を打っていますが、一貫しているのが「本物の農産物を提供する」「再生産可能な適切な価格設定」「品質と技術の向上」であり、本物の価値への追求をし続けている直売所の一つです。
以下【みずほ20年の歩み-農業の新しい時代を切り拓く-】(2010年11月 株式会社農業法人みずほ)より抜粋
農業生産者自らが再生産できる価格をつけ、「安売りより品質で勝負する直売所を立ち上げよう」という長谷川社長の決意のもと、1990年10月、3戸の農家が出資し、「有限会社みずほ」を設立した。
お店のコンセプトは、「花は心の栄養」「体の栄養が農産物」「安心できる無添加食品」の3つに絞った。生産者を選ぶ際にも「本物を守る」ことにこだわり、友人や仲間ではなく、地或の野菜作りの名人達に直売所への出荷をお願いした。商品に対する「こだわり」を意識して品質の良いものだけを置いたところ、「直売所は値段が安い」という固定観念を持つ消費者からは、値段が高いことに納得を得られず、当初は「高い」という評判だけが広まった。それでも、品質の良さを理解していただける人達の間で会員も増え、設立1周年を待たずに、年商1億円を達成した。
20年の歳月をかけて、「みずほ」の直売所の総売上げは、約1億円から7億円超にまで増大し、生産者(農業経営者)一戸当たりの売上げも平均で約850万円に増加しており、これまで一貫して「再生産価格」を堅持し、消費者との信頼関係を構築することが出来たと考えている。
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●地域・集団の再生
戦後以降、「農村から都市への若者流出、大量生産・大量消費、輸入自由化など」から日本の農村は衰弱の一途を辿ってきました。その危機感から農村・農業生産者達が自ら結集し、現在の直売所の原型が誕生します。
当時は出荷できない規格外品などを売ることが目的でしたが、社会状況、意識潮流が進むにつれてこの「地域・集団の再生」も変化していきます。
経済合理の追求によりバラバラになってしまった農業、建設業、観光業などの様々な業種がお見合いをし、相互に信頼関係で結びつき、それぞれが持っている知恵や情報、販路などを交換・共有することで、地域の内側から広がっていく産業構造をつくろうとしており、『地域に生きる』(東北地域農政懇談会編著・農文協刊)では、「地域という業態」という考え方で、直売所の可能性を見出しています。
2009年、農家は作目の壁、業種の壁を越えて、歴史に残る大きな前進をした。09年1月号の「堆肥栽培元年」。畜産農家が処理に困っている家畜糞を筆頭に、高速道路の土手の刈り草、食品工場から出る野菜・果物の皮や芯などの廃棄物、ライスセンターから出るモミガラ、近隣の町の人の捨てる生ゴミなど、農家は、身近な地域の有機物資源を本気で肥料として位置づけるやり方をおしすすめた。経営状況がきびしいなかで、「自分でやる・工夫する・捨てないで利用する・買わないでつくる・みんなでやる」……、そんな農業のやり方は、この間一貫して指導されてきた、選択的拡大による専作的な「業種」として効率的な経営をめざすという発想とはちがい、「業態」的である。
農家はもともと、食べものや資材の自給から兼業まで、多彩な仕事をこなす「業態」であった。その「業」は「生業」であり、それは暮らしと結びつき、あるいは暮らしそのものである。そして生産・生活の両面で支えあうむらの仕事のありようは、相互につながりあう「地域という業態」であった。つながりがなく単一的であるがゆえに他律と対立にならざるを得ない「業種」に対し、「業態」は結びつきを旨とするがゆえに自律と共生によって地域を形成する。それがむらという「業態」である。
それを、他の業種と連携しながら現代に復活、創造する。その条件、大きな可能性をつくりだしているのが直売所である。直売所はいまや、「地域という業態」を創造する原動力となり、「地域の再生」の拠り所となっている。
●「農」そのものへの期待と、それを媒体にした「社会形成」
2000年頃になると世界的な供給過剰を迎え、大衆の脱物化意識が芽生えると、自然体験教室などに見られる農の教育的価値、地域活性の基盤づくりなど、「農」そのものが持つ多面的価値に対する期待が高まります。(農・自然の再生)
そして、‘11年の震災、‘13年の不正選挙に代表される「お上の暴走」により「これからの社会を自分たちの手で創っていく」という意識が強くなってきました。
そこで、直売所経営においても新たに芽生えてきた志として、「生産者・消費者のネットワーク化、社会形成」があります。
JAおちいまばり(愛媛県今治市)は経営理念を『あったか~い、心のおつきあい。わたしたちは地域農業の創造、心豊かな地域づくり人づくりをめざします』とし、命と未来を創るのは自分たちであるという誇りを持ち、心のふれあいを大切にする組織をめざしています。
JAおちいまばりによって、直売所「さいさいきて屋」は‘00年に94人の出荷者でスタートした後、紆余曲折を経て‘07年には現在の大型直売施設をオープンしました。その後も「やるべきことをやる」といった意識で活動を積み重ねていき、現在では全国4位の売り上げ(22.5億円)を誇ります。
さいさいきて屋の取り組みとしては、「市民農園」や「学童水田」「学校給食への食材提供」「ネットスーパーによる買い物難民対策と安否確認」「ジーンズブランドとの作業着共同製作」などの企画で地産地消のみならず食育の推進や生活補助、他事業とのコラボレーションなどを通じて地域のネットワーク化も行っています。
以下引用(リンク [5])
「さいさいきて屋」は6面相だ。一つ目の顔は総合的な直売所。徹底した地産地消に基づき、農産物だけでなく、畜産物、魚介類(漁協の出店)の品揃えに工夫を凝らし、ワンストップショッピングが実現されている。
二つ目の顔は直売所と彩菜食堂、SAISAICAFE(コーヒーカフェ)との結合。後二者は直売所を支える。食堂は100%地元産と旬にこだわり、直売所出荷残品の翌日活用を実現。カフェはイチゴ・ブルーベリー等の果物が売れるようにタルトを作っている。さらに野菜や果実の出荷残品から乾燥・パウダー工房で作るパウダー・ペーストを活用した商品が溢れている。
三つ目の顔は地域の食のセンター。小中学校への給食素材の供給(4割程度カバー)や幼稚園への給食提供を担っている。
そして四つ目の顔は食と農の結合。直売所に隣接した新技術・新品種実証農園(519坪)は新規就農者育成、出荷農家への営農指導にも活用されるJAならではの施設。これに貸し市民農園(初・中・上級コース2052坪、ハウスまで貸し付け)、学童農園(267坪)が加わる。
五つ目の顔は農を起点とした地域経済振興(農商工連携)。実証農園では09年から今治名産のタオル原料である綿花栽培を始め、野菜や綿の枝葉で染色したタオルマフラーの商品化にこぎつけ(2012年度グッドデザイン賞受賞)、LEEとのジーンズ共同ブランドを開発した。
そして六つ目に、ネットスーパーによる買い物難民対策と安否確認の結合だ。タブレット端末で注文と安否確認を同時に行うシステム構築は地域社会維持の新地平である。
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■これからの直売所
“つながり”や“シェア”などに代表される「共認収束」を強めている現在、そしてこれからの世界では、「農」が持つ本源的な可能性への期待はより一層大きくなってゆくでしょう。
その中で直売所がどのように人々の期待に応えていけるかを、シリーズの過去投稿「5、生産(農)と交換(商い)の歴史<始原・縄文・古代・中近世> [8]」と「6、意識潮流と直売所の系譜 [9]」、そして先にあげた“みずほの村”や“さいさいきて屋”の成功事例を分析し、まとめます。
① 社会的な問題意識を持ち、それに対して追求する。(食・農の再生のため)
戦後日本の農業基盤の弱体化という問題意識から、生産者達が直売所に可能性を見出したことが「6、意識潮流と直売所の系譜」で分かります。そして、「みずほの村」では本物の食・農を再生し、つくっていくために20年以上の間追求し続けています。
② ①を元に生産者、消費者と信認・信頼関係を形成する。
みずほの村ではその追求の結果として、生産者や消費者との信認・信頼関係の形成に成功しています。
そして、「5、生産(農)と交換(商い)の歴史<始原・縄文・古代・中近世>」からも分かるように、歴史的に一貫して、他人あるいは他集団との「交換(商い)」は、信認・信頼関係に基づくものであり、集団維持には欠かせません。
③ 生産者、消費者と共に志を掲げ、地域の基盤を再生する。
その信認・信頼関係が地域住民を繋げ、地域の基盤を再生していき、夫々が個人的でなく、集団的に地域のことを考えるようになるでしょう。それが業種の垣根を越えて地域の内側から広がっていく産業構造をつくる力となります。
④ ①へ戻る(地域のため)
「さいさいきて屋」はその最先端事例であり、地域、そして人を育てることを志し、直売所を核として他業種とのコラボレーションや、ネットスーパーによる地域社会の維持、ネットワーク化を実践しています。
このように①→②→③→①→②…という活動が確実に進めば、直売所は、生産者・消費者と“共”につくっていく存在となり、「農再生・地域再生に向けての拠点」となっていくのではないでしょうか。



