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農が育む教育シリーズ7~畑が人を育てる タキイ研究農場付属園芸学校

みなさんこんにちは
農が育む教育シリーズも7回目を迎えました。
今回は、「タキイ研究農場付属園芸専門学校」について紹介したいと思います。
(1)タキイ研究農場付属園芸専門学校ってどんなところ?
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こちら [1]からお借りしました。
 みなさん、「タキイ種苗」という会社をご存じですか?身近なところでいうと、「桃太郎トマト 」や「青首大根」など、野菜の代名詞といえる種を次々と生み出し、日本最大、世界でも第4位の種苗会社です。 😀
 そのタキイ種苗が、「確かな技術を持った農家を育てることが、日本の農業の発展につながる 」という理念のもとで作られたのがこの学校です。農家の後継ぎ育成を主眼とした実践的教育を続け、これまでに3000人以上 の卒業生を送り出し、農業のエリート養成所、農業の東大とでもいえるような学校です。
 驚くべきことに、18~24歳の農家を目指す男子に対して、入学金、授業料は一切かからないんです! それ以外にも寮費、食費、研究費ともに学校負担!つまり、生徒には全く負担がないんです。 それで学校経営の経費は年間1億円もかかっています。
 学校は全寮制で、規律は厳しく自衛隊なみのハードさと言われています。ただし、卒業後は全国の農業法人から引く手数多。一般企業からも募集が来るそうで、学校生活の中で肉体的にも精神的にも大きく成長するようです。
そこにはどんな秘訣があるのか、追ってみたいと思います。
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(2)学校の特色
イ.設立時期と場所
学校の創立は1949年にさかのぼります。京都の長岡に実験農場ができ、そこに併設される形で学校が創立されました。その後、滋賀県湖南市に移転され、現在に到ります。
実験圃場であることから、農業の敷地は約70ヘクタール。東京ドーム15個分の広さを誇ります。
ロ.体も心もフル回転なカリキュラム
授業は実習と講義の2本柱。1年目は1500時間の実習 と、370時間の講義 があります。
実習においては一般的には機械作業を行う所であっても、まずは手作業から行うそうです。夏の炎天下でも、スコップ片手に畑に向かい、畝を立てたり、耕したりします。
一見非効率的なやり方ですが、手作業から始めて、その次に機械を使う事で、機械のありがたみが分る。どのように機械を使えばきれいに仕上がるか分るようになる。機械が使えない状況でも、機械以外の選択肢を考えられるようになり、作業の制度や選択肢が大きく広がるのだそうです。
そして、その日の実習が終れば、実習内容や気付いた事などを書き込んだ日報を提出することが、義務付けられています。
体だけでなく、頭も使って、かなりタフな生活です。
ハ.2カ年制
この学校は、2カ年制の学校で、1年目は本科生と言われ、基礎的な実習を積んで行きます。この1年で卒業する人もいれば、もう1年残る人もいます。2年生は専攻性と言われ、先輩として、本科生を引っ張ります。
ニ.全寮制
寮生活も特徴の1つです。1年目である本科生は相部屋で、食事や消灯の時間が決められ、携帯電話の使用も制限される。月に1回部屋の検査が行われ、整理整頓は必須。
寮に戻っても24時間1人になる時間などほとんどなくプライベートもないハードな環境といえる場所です。
また、専攻生になると、寮内では「部屋長」として2~4名の本科生の面倒を見ることになります。
部屋長は本科生の生活指導や相談事に乗ったり、本科生が何か問題を起こした場合、部屋長も連帯的に責任を負う事になります。
ホ.厳格な規律
共同生活のため、守るべきたくさんのルールがあります。朝7時から23時までタイムスケジュールが厳格に決っており、テレビなどの私有は厳禁。携帯電話の使用も制限。外出・外泊には学校への届けが必要。飲酒は厳禁。喧嘩などの暴力行為は即刻退学など、厳格な規律があります。
(3)「タキイ種苗」は、なぜこのような学校にしたのか?
この学校の目的は、前述でもあったように「確かな技術を持った農家を育てることで、日本の農業の発展させる」です。
学校の生活は決して甘いものではありませんが、この学校の生活が、どのようにして、「確かな技術を持った農家を育てること」につながって行くのか考えていきたいと思います。
イ.畑が人を育てる
農業というのは、基本、体が資本です。農作業をこなしていくためには、強靭な肉体 が必要です。また、自然相手なので、思い通りにならないことはたくさんあります。そんな中でも前向きに 進んでいくための強い精神力、忍耐強さ 😈 が必要です。
そして、農業は決して1人ではできない仕事です。仲間と協力して作業を行っていきます。そのための団結力 が必要です。
様々な力が必要なんですが、タキイ種苗では、「畑が人を育てる」と言っています。
どういう事でしょうか?
書籍「五感で学べ」より、この学校の先生の言葉を引用します。

「自分以外の生命を育てるという行為には、相手を主体としてものを考える力が必要です。これこそまさに“思いやり”です。植物を育てる行為が思いやりを育てるのです。」
(中略)
「植物を育てるという個人的な行為を集団で行うことで、複合的コミュニケーションが生まれ、共通の価値観を築き、連帯感を得る事ができます。仲間の存在によって「孤独ではない」、「人の役に立っている」、「自分の存在は無意味ではない」ということが確認でき、次のステップへの意欲へと繋がっていくのです」

植物を育てる事も、人と関わる事も、突き詰めれば一緒なんですね。
一見非効率と思える肉体労働的な実習や、24時間プライベートもない寮生活、厳格な規律の中で、同じようにつらい思いをし、同じ釜の飯を食い、同じ風呂に入る。お互いのいいところもイヤなところも否応なく目に入ってくるなかで、彼らは、反発し、許し合い、認め合い、笑い合える仲になっていく
このようにして、思いやる心や団結力が養われていき、植物を大事に育てる事につながっていくのですね。
そんな学校を取材したジャーナリストの川上康介氏は書籍「五感で学べ」の中で、「タキイ3倍速の法則」なるものを提言しています。18歳で入学した生徒が2年間この学校で学ぶと、卒業する頃には24歳程度に、22歳から2年間学んだ場合には、28歳程度の雰囲気をまとうといったように、他の学校の生徒らに比べ、同校の生徒は3倍の速さで成長するというものです。
その秘密は、普通の社会人が1日8時間を会社に捧げるのに対し、この学校では1日24時間すべてを農業に捧げることにあります。ただ農業の技術だけを学ぶのであったら、そうは成長できないかもしれません。24時間農業漬けになり、人間関係からも学んでいくことで、農家として生きていくための心構えや体力、そして規則正しい生活習慣の重要性を学んでいくからだと思います。
るいネット [2]に参考になる投稿がありましたので、引用します。

るいネット「上中町企画需要分析③体験教育(農が教育に及ぼす効果)」より引用
ただ人間が共認動物であり、期待と応望を活力源とする存在である、ということを考えれば、おそらくこれらの回路を真っ当に開いていくという効用をもつという事なのではないかと考えられます。
その点で思い起こされるのが、長年農業を行っている篤農家は稲などの作物と会話ができるらしいということです。実際会話を行っていく事で、作物の健康状態や何が足りないかが分るようです。
(中略)
元々人類はサル以来築き上げた、期待応望回路を自然を対象に転用し、自然の声を聞き取っていました。物言わぬ植物達の、ほんの僅かの現象上の変化を、応望回路を用いて捉え、その植物たちの声に応える事で充足を得るという形で、日常は「自我」の圧力が邪魔して開けない応望回路が素直に開かれていく。作物と接するということはそうことではないか?と私は解釈しています。

人に対しては、自分に不都合なことがあれば、相手を否定してしまったり、独りよがりになったりしますが、植物に対しては、屁理屈などこねず、自ずとよく観察しようとしますよね。
植物と接する行為を繰り返すことで、人間に対しても素直に相手を受け入れ、信頼関係を築いていけるようになっていく。農が教育に及ぼす効果ってこんなところにあるんですね。
思い通りにならないことを周りのせいにしたり、否定することなく、現実の圧力(事実)すなわち課題を認識し、課題共有して、みんなで期待と応合を重ね合って乗り越えていく事が、どんな仕事にしても必要な能力であるように思います。
タキイ種苗が考えている農家の育成もこんなイメージに近いのではないでしょうか?
こんな教育を無償で行っているタキイ種苗ってすごいですね!こんな学校がもっと増えれば良いのにと思います。
また、ここまでの教育を一般の学校ができるかと言ったらまずできないと思います。それは、現実の圧力に対峙している企業だからこそ、ここまで身のある教育ができるのだと思います
企業が受けている圧力とは、業績を上げる。つまりお金をいかに稼ぐかという圧力が大きいと思います。今後、「まっとうな人間を育ててほしい」という社会的期待がかかっていけば、教育といった側面が大きい学校としての機能も有していくと思います。
前回の記事 [3]でも触れていますが、企業が学校を作るという事は大いに可能性があると思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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