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農薬を徹底追究!まとめ(3) 農薬の残留基準~「危険か安全か」を超えて

Posted By komayu On 2009年9月28日 @ 12:00 PM In 4-a. 農薬を徹底追求 | 8 Comments

こんにちは、こまつです。
sugi70さんの記事を読んで、農薬が市場に出回るまでには、とても長い月日と費用を掛けて、その安全性の検証が行われていることが判りましたね。またその前の記事では、「農薬による消費者の健康リスクは非常に小さい」というような報告もありました。とはいえ、作物への残留農薬の影響の問題は、消費者にとってもっとも気になるところだと思います。
農薬の問題は、いつも「危険か安全か」という価値論の枠の中でしか議論されませんが、消費者も生産者自身も、実は農薬のことを殆どよく知らないというのが実態ではないでしょうか?農薬に関する「事実」を全然知らないから、マスコミの報道に振り回されたり、価値観の対立に終始して、いつまでたっても答えが出せないのだと思います。
まずは、先の農薬の登録制度のことや、残留農薬基準や使用基準などがどのように決められているのか、というような事実を、しっかり追究していくことが必要ですね。
引き続き、農水省HP「農薬の基礎知識」 [1]より、残留農薬基準の考え方を明らかにし、農薬問題についての「答え」に迫りたいと思います。
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●農薬の残留基準はどのようにして決められるのか

(1)残留農薬とは
農薬は、病害虫や雑草などの防除、作物の生理機能の抑制などを目的として農作物に散布されますが、目的とした作用を発揮した後、ただちに消失するわけではありません。
このため作物に付着した農薬が収穫された農作物に残り、これが人の口に入ったり、農薬が残っている農作物が家畜の飼料として利用され、ミルクや食肉を通して人の口に入ることも考えられます。このように農薬を使用した結果、作物などに残った農薬を「残留農薬」と言います。この残留農薬が人の健康に害を及ぼすことがないように、農薬の登録に際して安全性に関する厳重な審査が実施されています。

(2)安全な範囲での農薬の残留基準とは
まず、農薬の登録申請時に提出される毒性試験の結果から、その農薬を一生涯に渡って仮に毎日摂取し続けたとしても、危害を及ぼさないと見なせる体重1kg当たりの許容1日摂取量ADI:acceptable daily intake)を求めます。
一方、作物に散布された農薬は、作物に付着するもの、付着しきれずそのまま土壌、大気中にいくもの、水田水から河川に入るもの、また分解してしまうものがあり、農作物や水などを通じて人間が農薬を摂取することになります。したがって、各経路から摂取される農薬がADIを超えないように管理、使用する必要があり、環境大臣が定める登録保留基準は、この点を考慮して設定されています。
こののち、農薬の有効成分(成分)ごとに食用作物に残留が許される量を決めたのが、農薬の残留基準です。大気や水からの農薬の摂取を考慮して、各作物の農薬の残留基準の総計が、この農薬のADIの8割以内となるように決められています。
現在登録されている農薬については、ラベルに表示された使用方法を守って使用すれば、農薬が基準を超えて残留し、これによって国民の健康が脅かされる恐れはないのです。

「一生涯に渡って毎日摂取し続ける」 ことなど、絶対にあり得ない条件ですが、それぐらいの安全率を考慮した上で、それでも危害がない摂取量を基準値にしています。 :o

(3)体重1kg当たりの1日摂取許容量(ADI)の決め方
体重1kg当たりの許容1日摂取量(ADI)とは、その農薬を人が一生涯に渡って、仮に毎日摂取し続けたとしても危害を及ぼさないと見なせる量のことです。
まず、ラットやマウスの動物を用いた慢性毒性試験などの長期毒性試験の結果の中から最も低濃度でも影響の見られる試験を選び、その試験で影響のみられなかった投与量(無毒性量/NOAEL:no-observed level(mg/kg/日))を求めます。この値は動物試験による結果であることと人においては個人差があることを考慮して、不確実係数(通常1/100[1/(10[種間差]×10[個人差])])を乗じ人に影響のない量を求めます。この結果がADIとなります(図7)。

図7.動物を用いた長期毒性試験における反応出現率と農薬投与量の関係
このADIは、体重1kg当たりの許容1日摂取量であり、これに日本人の平均体重(53.3kg)を乗じることにより、日本人1人当たりの摂取が許容される量となります(図8)。この値が農薬の残留基準を設定する際の基となります。
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図8.許容1日摂取量(ADI)の算出の流れ図

もちろん人体実験などできませんから、動物実験で検証する訳ですが、そこで得られた結果の1/100の数値が適用されています。ここでもかなりの安全率が見込まれていますね。

(4)農薬の残留基準の決め方
通常、作物の表面に散布された農薬は、大気中への蒸発、風雨による洗い流し、光および水との反応による分解で、散布日から時間が経つにつれて減少していきますが、収穫時に農薬が残留することがあります。
農薬の残留に関する登録保留基準については、厚生労働大臣が食品衛生法に基づき定める残留農薬基準を用いることとしています。平成15年7月1日から内閣府に食品安全委員会が設置されたことから、残留農薬基準の設定に必要な毒性評価については、食品安全委員会の農薬専門調査会で行われることとなりました。
水質汚濁に係る登録保留基準については、従来同様、環境大臣が定めることとしています。

ア 作物への残留基準の決め方
農薬の作物への残留量は、登録申請時に提出される作物残留試験から得た残留量を基に基準値が設定されます。その場合気象条件など種々の外的要因により変動する可能性があることから、基準値は、試験での残留量に比べて、ある程度の安全率を見込んで設定され、また外国基準及び国際基準等も考慮して設定されます。
例として大豆、小豆類及びかんしょ等に使用される農薬について説明します(表4)。一定の使用方法を前提に行った試験による農作物への残留量が、大豆で0.97ppm、小豆類で0.82ppm、かんしょで0.47ppmの場合、これらの結果を基にかなり安全をみて各残留値を大豆で2ppm、小豆類で2ppm、かんしょで1ppmと以下いちごまでとりあえず仮置きします。次にこの値と各農作物を国民が平均的に食べる量(厚生労働省の国民栄養調査によるフードファクター)から農薬の推定摂取量を計算します。各作物の推定摂取量の合計は0.2378mgとなり、この許容摂取量4.4184mgの8割以内であるため、この場合、各作物の基準値は、大豆で2ppm、小豆類で2ppm、かんしょで1ppmに設定されます。

作物群 使用方法 最大作物残留量(ppm) 基準値(ppm) フードファクター(g) 推定摂取量(mg) 日本人の許容摂取量(ADI×53.3)
大豆 散布 0.97 2 56.1 0.1122
小豆類 散布 0.87 2 1.4 0.0028
かんしょ 散布 0.47 1 15.7 0.0157
てんさい 散布 0.31 1 4.5 0.0045
キャベツ 散布 0.82 2 22.8 0.0456
たまねぎ 散布 0.33 1 30.3 0.0303
にんじん 散布 0.46 1 24.6 0.0246
未成熟いんげん 散布 0.38 1 1.9 0.0019
えだまめ 散布 0.16 0.5 0.1 0.00005
いちご 散布 0.15 0.5 0.3 0.00015
合 計 0.2378 4.4184mg/人/日

推定摂取量(mg:各適用作物[基準値(ppm)×フードファクター(kg)]の合計)≦ADI(mg/kg)×53.3(kg)

イ 水質汚濁に係る農薬登録保留基準の決め方
水田で使用される農薬では、作物に散布された農薬が水面に落下するだけでなく、直接水田に施用されるものもあります。使用された農薬は水田の土壌に付着したり、水中で分解したりしますが、排水路などに流出し、河川を経由して飲料水として摂取されることも考えられます。
そこで、日本人1人当たりの1日の飲水量は2リットルとし、飲料水からの日本人1人当たりの摂取が許容される農薬の量をADIの10%の範囲までとなるように、水質汚濁に係る農薬登録保留基準の値を設定します。
水質汚濁性試験成績から計算した、150日間の平均濃度が基準値を越えていなければその農薬は登録されます。

●環境への安全性の評価
農薬を登録する上で、人畜に対する安全性以外に、水産動植物やミツバチ等に対する安全性についても検査を行っています。

(1)水産動植物への影響
水産動植物にかかる登録保留基準として、コイに対する48時間の半数致死濃度(LC50)を用いて、一律の基準が設定されています。しかし、供試生物はコイのみであり、また環境中での暴露量が考慮されていないなどの課題があります。
このため、環境省において農薬による野生生物や生態系への悪影響の未然防止に係る検討を行い、水産動植物に対する毒性に係る登録保留基準について実質的な生態系の保全を視野に入れた取組を強化するため、魚類、甲殻類、藻類に対する毒性値と公共用水域における予測濃度を比較して評価する手法に改める旨の環境省告示改正が行われ、平成17年4月から施行されることとなりました。
なお、農林水産省においては従来から魚類のコイだけでなく、甲殻類のミジンコ類、藻類では植物プランクトンの一種を供試生物として実施した試験成績を求めています。魚毒性試験では処理96時間における半数致死濃度(LC50)を、ミジンコ遊泳阻害試験の場合には、処理48時間の半数遊泳阻害濃度(EC50)を求め、影響の程度の判定を行い、農薬の使用上の注意に反映されています。

(2)有用昆虫等への影響
有用昆虫(蚕、ミツバチ、天敵昆虫等)への影響をみるため、各有用昆虫を用いた試験が行われます。ミツバチでは半数致死量LD50、蚕では残毒期間等が調べられ、農薬使用時における安全な取り扱い法が確立されます。

(3)鳥類に対する影響
使用場面、剤型などを考慮のうえ、必要に応じて実施されます。ウズラやマガモ等を用いて経口毒性試験の結果、強い毒性が認められる場合には、混餌投与毒性試験も実施され、鳥類への影響を調べています。

(4)有効成分の性状、安定性、分解性等
農薬の有効成分等の性状、安定性、分解性等農薬の安全性評価に当たって必要不可欠な基礎的科学的知見を得ることを目的として行われる試験でありますが、環境中での動態を推測するのに重要な指標としても利用されます。

●農薬の使用方法を守る理由
農作物に付着した農薬を摂取しても人の健康に影響がない量として、各農作物毎に農薬の残留基準が定められますが、これを超えないためには、試験で確かめられた一定の農薬の使用方法(使用時期、使用濃度、使用回数など)を守ることが前提です。この使用方法は農薬のラベルに記載されています。
実際には、残留基準値はかなり安全をみて設定してあり、また、人が実際に農作物を食べる際には、洗ったり皮をむいたりするので、試験で分析された量(洗ったり皮をむいたりせずに分析しています。)に比べて格段に少ない量しか摂取することはありません。しかしながら、これだけの安全性を加味しつつ、農薬のラベルに記載された使用方法の範囲内で農薬を使用することによって、十分高い安全性が確保できると言えます。
例としてある農薬Aの残留基準が農作物Bに1ppmと決められているとします。農作物Bに農薬Aを散布した時、農作物B中の残留量は図9のように減少していくとすると、散布直後には2ppm残留していた農薬が7日後に0.5ppmとなり、散布できる日は「収穫前7日まで」に設定されます。農薬の使用者がこの使用時期を守って使えば、作った農作物に基準値を超えて農薬が残留することはなくなるわけです。
また、農作物への農薬残留のみならず飲料水への農薬残留や水産動植物への農薬の被害を防止することも大変重要です。このため、たとえば止水期間が設定されている農薬についてはその期間を遵守するなど、農薬の使用方法を守ることは、農薬使用者の責務であるといえます。
[3]
図9.残留農薬の減少曲線
これらのことを担保するため、農薬使用基準が農薬取締法に基づき農林水産大臣と環境大臣により制定されており、法律上農薬使用者にはこの基準の遵守が義務付けられています。

◆まとめ~「危険か安全か?」を超えて
これまで見てきたように、農薬の安全性を検証するために、長い月日とエネルギーが掛けられていることが判りました。そして、その安全性を実現するためには、使用者がその使用基準を守ることが最も大切で、それが農薬使用者の責務です。従って、農薬の安全性に問題があるとすれば、農薬そのものではなく、農薬の登録制度や使用基準の決定方法自体に問題があるということになります。
従って、農薬の安全性の議論は、「危険か安全か」という価値論ではなく、登録制度や使用基準の中身に踏み込んで、問題がないかどうかを検証し追究すべきなのです。
食料の安定供給、それは、現代の農業に対するみんなの期待であり、農業が社会に果たすべき最も大切な役割です。そのためにも、病害虫や雑草をしっかりコントロールしていくことが、農業生産者にとって非常に重要な課題なのです。そして農薬は、その課題を果たすために、今や欠かせない道具の一つとなっています。
その意味でも、まずは「農薬の必要性」についての議論が必要なのではないでしょうか。そのためには、農業に期待されていることや、農業の役割、つまり農業を取り巻く「外圧」をしっかりと掴むことが何よりも大切になります。生産者にも消費者にも、社会状況や時代を読み解くための構造認識が、何よりも不可欠なものとして求められているのです。


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