こんにちは。お久しぶりの長谷です。
コータローさんの記事、 「稲作と共同体の関係」 を読ませていただいて、現在の日本の状況はどうなっているのか、調べて見ました。その一端を、現場の状況も含めて、書きたいと思います。
日本の稲作と言えば、その水利慣行に、日本的共同体性が良く現れていますが、近年進められてきた、稲作経営の大規模化(効率か?)によってどう変わって来ているのでしょうか?
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水路の維持管理作業の様子
以下
現代社会と農業用水:日本型利水コモンズのゆくえ
生源寺眞一(東京大学)
http://www.pref.kochi.jp/~kikaku/monoasu/monobeinfo_4.pdf [1]
より引用
4. 農業の変貌と農業水利
耕作放棄による農地面積の減少傾向にも歯止めがかかっていない。けれども、こうしたなかにあってさまざまな新しい動きがみられることも事実である。例えば借地による規模拡大を進める担い手農家や、作業受託によって規模の経済性を追求する生産組織の活動などである。こうした新しい動きは、伝統的な水田の農業水利に対してどのようなインパクトを与えているであろうか。以下では、ひとつのケーススタディを通じて、今後の農業水利組織のありかたを展望してみたい。ここで取りあげるのは、長野県飯山市の中条集落における農業水利組織の経験である(注6)。
農業水利組織の基本的な機能は、水利施設の維持管理と用水の配分調整のふたつであると言ってよい。中条集落においても、このふたつの機能が集落によって担われ続けてきた。けれども現在の農業生産の構造は、農業水利組織が形成された時代の等質的なそれとは大きく異なっている。農地面積を基準とする農業経営の規模は大きく分化しており、キノコを中心とする労働集約的な作目も存在する。したがって、稲作の持つ経済的な重要性にも農家によってずいぶん大きな差がある。にもかかわらず、水利施設の維持管理労働の負担については、農家間で極端な違いが生じないかたちで配賦されている。こうしたフラットな負担の基本型が、1戸につき1人の出役方式である。さらに農業水利に関与する役員の人数が多数にのぼる点にも、実質的には無償に近い役員労働の負担をできるだけ多くの世帯に分散させる配慮がうかがわれる。加えて、中条集落においては、農業に直接利用される共有資源のほかに、道路の維持管理にまつわる共同作業が非農家を含めた全戸による一律の出役のもとで実施されている。
一方、用水の配水調整についてははっきりした変化が生じている。とりわけ用水の需給が逼迫するク
リティカルな代かき時期における水利用調整のシステムには、注目すべき転換が認められるのである。
具体的には、代かき用水の配水を特定の個人がすべてを引き受けて行うようなシステムが新たに形成されたのである。この変化の背景には、中条集落において実施された圃場整備事業がある。圃場整備事業は1990年には完了し、これを契機として用水の供給条件も改善された。そして他方で、圃場整備事業をきっかけとして稲作の生産組織が形成され、代かき用水の個々の圃場への配水については、集落の用水調整の担当者(現地では水掛人と呼ばれている)が、生産組織がカバーしていない圃場も含めて一元的に行うことになったのである。ただし、水掛人は生産組織の担い手でもある。
—中略—
中条集落の経験が興味深いのは、水利施設の維持管理作業については全戸出役の伝統的なスタイルを維持する一方で、用水需要のピーク時の配分調整に関しては、思い切って生産組織主導型のシステムを導入していることである。共有資源を保全する地域社会のルールが継承されながら、他方でいわば攻めの農業を支える水利用システムが工夫されている
のである。このことは今後の農業水利のありかたを考えるうえで、非常に示唆に富んでいる。
—中略ーーー
地域共通資本の維持管理に求められる多くのメンバーに分散的に支えられる村社会の機能と、地域共通資本の利用をめぐる集中という二律背反的な命題を、巧みに両立させている
のが中条集落の試みなのである。
これを見ると、
大規模生産組織による経営の是非は、一旦置いておくとしても、
少なくとも、集落の担ってきた水田関係のインフラの維持管理機能を持続できなければ、1経営体が規模拡大を図っても、稲作は、成り立たないことが分かります。
中山間地で稲作を営んでいる者の実感としても、市場経済上の数字には表れて来にくい、こうした集落が担っている課題のボリュームは、想像以上に大きいものがあります。(水利だけに限りません) とても、1経営体が、コストを負担して抱え込めるものではありません。
これは、高度な灌漑設備と稠密な栽培管理によって成り立っている日本の稲作の特徴と言えるかも知れません。
そうした意味で、いかなる形にせよ、
日本で稲作を営んで行く上で、集落機能の維持(共同体的機能の維持)、引いては、地域の活性化は、必須条件
と言えると思います。
しかし、現実は、集落の共同作業も、罰金制
を採り入れて、やっと参加率を維持している集落も多く、早急な対策が望まれる状況でもあります。