こんにちは、小松です。
近年、米や野菜の消費量は減少の一途を辿っていますが、われわれ生産者にとっては、独自の販路開拓は今後不可欠なものになると思います。また、業務用・加工用の需要は伸びているようで、そこへいかに売り込んでいくかということも、あらためて考えていかなければなりません。
米の販売においては、“オーダーメイド”の業務用米で売上を伸ばしている農家の方の記事が、「現代農業」に掲載されていたので紹介します。でも、オーダーメイドのお米って?
以下、「現代農業」2006年2月号 [1]の記事を転載します。
「オーダーメイドの業務用米」を販売
品種ごとの「ご飯」の味を語れる農家になりました
(宮城県南方町・阿部善文さん)
ひとめぼれ地帯で多品種生産
宮城の代表的な米といえば「ササニシキ」。しかし平成5年の大冷害以降は生産量が激減。現在はほとんどの農家が冷害と倒伏に強い「ひとめぼれ」を作っている。
阿部さんの主力品種も「ひとめぼれ」。でもそれだけじゃない。かつての代表種「ササニシキ」も作るし、「こころまち」「まなむすめ」「ミルキークイーン」「おきにいり」「春陽」「みやこがね(糯)」などいろいろ作る。「ひとめぼれ」しか作っていない周りの農家から見ると、ちょっと変わった経営だ。
業務用のお客さんはいろんなご飯を求めている
じつは阿部さん、平成15年の秋からインターネットで業務用米を売り出している。業務用でも「ひとめぼれ」は好き嫌いのない品種ということで人気がある。しかし、阿部さんの取引先は、寿司屋、レストラン、料亭、居酒屋、保育園、病院など40件を超える。それだけあれば、取引先がご飯に求める品質もいろいろ。
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よく言われることだが、寿司屋さんは粘りが強すぎず米が酢とバランスよく混ざり、冷えてもおいしい「ササニシキ」を好む。
「最近の子どもは噛む能力が落ちている」と心配するこだわりの保育園は、粒がしっかりして噛みごたえのある米が欲しいということで「こころまち」を。
「ライスおかわり無料」を掲げる焼き肉屋さんは、粒が大きくて炊き増えも大きく、なるべく「しっかり食べた」感が残る米ということで「まなむすめ」を。
「出産」という一大イベントの特別感を演出するこだわり病院食が売りの産婦人科は、白度が高くてご飯が光り、おいしいけれども妊婦の嫌う「もち臭」が強くない「ミルキークイーン」と「まなむすめ」のブレンド米を。
などなど、多様なニーズに応えようとすると、ひとつの品種だけではとても対応しきれないのだ。
安ければいいんじゃない?は大間違い
平成10年からネット産直に取り組んでいた阿部さんだが、当初の対象は個人のお客さん、それもある程度値段がはっても品質のいい米を求める人だけ。それでもたまに「業務用に米を使いたいんだけど…」という話があった。
品質はやや落ちるが値段は安めの米の売り先を探していた阿部さん。ある日インターネットの検索サイトで「業務用米」を検索してみたら、ヒット件数が1ページ分しか出てこなかった。「あれ? まだこれくらいしかないなら、うちでもできるんじゃ…?」と思ってホームページに「業務用米の販売を開始いたしました」と載せてみたところ、かなりの反応があった。ところがこれが予想外の展開に。
阿部さんは当初「安ければ品種や品質はそれほど問題にならないんじゃないかなぁ」となんとなく思っていた。そして確かに最初は「1kgいくらでできますか?」というような質問が多かった。
しかし安い米を求めるお客さんはとことん安い米を求める。ちょっとでも安いところがあればすぐに流れてしまうので、阿部さんのような個人で米を販売する農家からは結局離れていってしまう。
取引が継続するのは、個人ならではのこだわりの米を求めている、こだわりを持ったところだった。
たとえばある大阪の料理屋さんに値段と品質もまぁまぁの米を見繕ってサンプルで送ったところ、「これじゃあ使えない。もっと高くていいからいい米ちょうだいよ」と言われてしまった。「安くしろ」とは言われても、まさか「高くしろ」と言われるとは思っていなかった阿部さん、かなり驚いてしまった。
考えてみれば、阿部さんは栽培のプロだが、料理人は料理のプロ。米を一目見ただけで、炊き上がりの様子まで想像できてしまう人もいるくらい。米の品質に関しては個人のお客さんよりさらにシビアな意見を言ってくる。
やがて「業務用だからとにかく安い米」という考えをまず捨てて、「相手がどんな米を求めているか」を理解することが大切だということに気がついた。
阿部さんが栽培するイネの品種と、阿部さんが考えるそれぞれの品種の特徴
ひとめぼれ | 粘り、味、粒ぞろいもいい優等生で誰にでもうける。炊飯したときの光沢もいいので、とくに白米で食べる料亭などにはおすすめ。香りは「ササニシキ」や「こころまち」に比べるとやや劣る。 |
ササニシキ | やわらかくて冷めても味が落ちず、のどごしはつるっとして寿司ネタとの相性もいい。シャモジがスッスッと軽く入って、「シャリ切り」もしやすく、寿司屋さんには不動の人気 |
ササニシキBL | ササニシキとほぼ同じ。ただ若干硬め? |
こころまち | 粘りは少なめで歯ごたえはしっかり。香りがいい。硬めの米を好む関西の米屋から大人気。逆に関東では人気がない!? |
まなむすめ | 粒が大きく、適度な歯ごたえもあるので食後の満足感たっぷり。また粒が硬くて精米を強くしてもデンプンが漏れず、おいしさが変わらないので白度を上げられる。ライスサービスの焼き肉屋や白い皿にライスを盛るレストランに人気 |
ミルキークイーン | 粘りが強くて、噛むともち米のように甘みが出る。冷めても食味が落ちない。白度が高くて光沢も出るので、白米で出すレストランや弁当屋にも人気 |
おきにいり | 粘りはあるけれども歯ごたえもしっかり。香りは「こころまち」より少ないが、やはり関西方面の米屋に人気 |
春陽 | 腎臓病の人にもやさしい低グルテリン米。病院向けに受注生産 |
みやこがね | 最高級のもち米。つきたてはコシが強く、煮ても焼いてもおいしい。赤飯やおこわにも最適 |
「オーダーメイドの米」は品種の特徴を知ることが不可欠
現在、阿部さんは業務用米販売すべての取引先に「オーダーメイドの米」を提供している。まず相手がどんなご飯を求めているかを聞いて、阿部さんが作っている米のサンプルを送る。相手がそれで満足しない場合は、品種をブレンドしたりしてまたサンプルを送る。そんなやりとりを繰り返して、相手が本当に納得する商品を作っていく。そのためには当然いろいろな品種が必要なのだ。
阿部さんは業務用米販売を始めてみて、自分が思ったより米の品種ごとの特徴を知らなかったことに気づいたらしい。もちろん栽培上の特徴はわかる。しかし、以前は食感や食味、香りなど「食べたときにどんな米か」はそれほど気にしていなかった。
業務用では「もっとコシのある米」とか「コクがある米」とかなんとも判断が難しい要求をビシビシされる。そういうお客さんには、食べたときの品種の特徴を自分がしっかりわかってないと、「じゃあこの米はどうでしょう」という提案すらできなくなってしまうのだ。阿部さんも必死に自分の米を食べ比べ、今では「目隠しして食べても、どの米かわかる」ほどになった。
サンプル提出から契約まで少なくとも2~3回はやりとりしなければならないので、結構時間がかかる。「もっとパッと売れればいいと思ってたけど、いやぁ、本当にたいへんですね」と阿部さん。しかし、そうやって苦労してつかんだお客は離れることがないし、30kg1万2000円(個人向け販売金額のおよそ7割。同じ品質の米だが、包装や送料にかかるコストが低い分安い)くらいで十分売れる。
3年間で業務用米の売上は経営全体の1割を占めるくらいになり、まだまだ伸びそうな勢い。当初の「安い米を売る」という目的通りではない。しかし1回でまとまったお金が入るので、個人販売だけのときより資金運営がだいぶラクになった。
栽培に都合がいいように品種を増やす
ただし阿部さんが業務用販売を始めたのはまだ3年前。それから急にいろいろな品種を作りはじめたわけではない。栽培のうえでも多品種のほうがなにかと都合がいいのだ。
阿部さんももともとはササニシキばかり作っていた。しかし粘土質の肥切れが悪い平場でササニシキを作るのは非常に難しい。少しでも天候が悪いとすぐに倒れ、苦労していた。
早くから産直を始めていた阿部さんはササニシキ以外の米も試作してお客さんの反応を探り、「ひとめぼれ」は人気があることをつかんでいた。そこで、ササニシキは砂壌土で肥切れがいい山場の開田地帯のみで作ることにして、平場はひとめぼれに変えた。その結果、ササニシキもひとめぼれも倒れず、うまくできるようになった。
また、無農薬無化学肥料が大前提の阿部さんは、アイガモ米にも取り組んでいる。しかし始めるときは糞の肥料分が多く出ることと、放鳥のやり方によほど気をつけないとイネが食べられてしまうことが心配だった。
そこで、ある程度肥料が多くなっても倒れにくく、食味も落ちず、アイガモに食べられない大きさまですぐ育つ初期生育が旺盛な品種を探していた。そんなときに地元の古川農試が「こころまち」を開発。これはまさに阿部さんが望んでいた品種だった。おかげでアイガモ農法は大成功。
また、平場でもとくに排水が悪く、ひとめぼれでも作りにくいところには「まなむすめ」を導入。稈が強いこの品種は、どんな悪条件の田んぼでも倒れずによく育った。
適地適作で品種それぞれのよさが売りになる
「米余りの今、『作ったから買ってください』ではやっていけませんよ。『あなたのために作りました』という米でないと」という阿部さん。しかし、ニーズがあればなんでも作るというわけではない。有機で作るという大前提と、自分の置かれた環境から、自信を持って栽培できる品種を選んでいるのだ。
じつは阿部さん、「コシヒカリはないの?」とお客さんに言われて「コシヒカリ」を作ったこともある。しかし、秋の訪れが早い宮城でコシヒカリを作るのはやはり難しい。とくに有機栽培は登熟にかかる時間が長いから青米が非常に多かった。「こんなコシヒカリだったらほかのところから買ったほうがいい」と思った阿部さんは、翌年からコシヒカリの栽培をやめてしまった。
「米づくりも売り方もひとつじゃない。やっぱり適地適作。地域に合った品種で、品種それぞれのよさがちゃんと出るように作り、それをアピールして売らなければ」と阿部さんは言う。
たとえ地域で一般的に「ひとめぼれ」が作りやすくても、田んぼは1枚1枚違うから合わないところもある。無理して作るコシヒカリやひとめぼれより、バッチリ一番いい時期に作った「こころまち」や「まなむすめ」のほうがよっぽどおいしい。お客さんだってそんなお米を欲しがっているのだ。
「『あなたのために作りました』という米でないと」の言葉が印象的です。
オーダーメイドの米とは、「これを作ったから買ってくれ」ではなく、相手の求めるものを提供するということなんですね。それは、相手の期待に応えるというスタンスそのものであり、全ての人間関係、信頼関係は、この期待と応合の充足の上に成り立っていると言っても過言ではなく、それほど大切なことなのだと思います。
これからの米作り、野菜作り、そして販路開拓の大きなヒントをもらったような気がします。